台湾とは何か (ちくま新書) 野嶋剛 筑摩書房 2016/05/09

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銀輪の巨人 野嶋 剛 東洋経済新報社 2012/6/1 - いもづる読書日記

タイワニーズ 故郷喪失者の物語 野嶋剛 小学館 2018/06/08 - いもづる読書日記


 野嶋剛三冊目。台湾政治のわかり難さは、本書のいたるところに現れるが、次の文章に代表される。「中華民国体制は本来、中国大陸も台湾もその領土に含まれることを前提としている。一方、中国側は、中華人民共和国的な『一つの中国』を掲げている。この点で中国は譲ることはないが、台湾が中華民国的な『一つの中国』を捨てないことは、逆に評価するようになっている。台湾独立こそが、中国にとっては、いま真っ先に抑え込む相手だからだ。」(183ページ)
 日本人にも、中国人にもノスタルジックな台湾。その不思議な存在感は微妙なバランスの上で実現している。このバランスを、多分、中華人民共和国は理解している。香港の返還式典において、ゴッド・セイヴ・ザ・クィーンでユニオンジャックが下がったあと、五星紅旗の掲揚を盛り上げた国歌(義勇軍進行曲)の身もふたもないパワフルさが思い出される。この中国というからっ風が台湾も日本も蹂躙していくのかと思うと、ある種痛快に感じないでもない。

アジアの中の日本―司馬遼太郎対話選集〈9〉 (文春文庫) 司馬遼太郎 文藝春秋 2006/11/01

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タイワニーズ 故郷喪失者の物語 野嶋剛 小学館 2018/06/08 - いもづる読書日記

「朝鮮 民族・歴史・文化」金 達寿著 岩波新書 1958 - いもづる読書日記

 

 アジアをテーマにした司馬遼太郎の対談集で、対談相手は桑原武夫陳舜臣開高健金達寿李御寧。解説は関川夏生。該博な知識と構想力に圧倒される。「で、日本はどうだったかと言うと、嘉永六年に蒸気船が来たとき、ああ、これを作ろうって三年後に薩摩と宇和島で作ってしまいますね。それは便利だからっていうより普遍性への憧れやね。それが技術の形になっているわけ。(中略)これが日本と中国の違いで、中国は自分の普遍性を持っていたために、近代化に時間がかかった。アラビア人はあと何年かかるかわからない。」(54ページ)
 儒教が朝鮮社会をしばり発展を妨げてきたと、金達寿が繰り返しているのが印象的だ。「朝鮮 民族・歴史・文化」では朝鮮史における下からの改革のダイナミズムを述べていたが、抑圧と反発のエネルギーが大きいことが朝鮮=韓国の特徴か。北朝鮮の体制もいつかは転覆されるのかもしれない。

安井かずみがいた時代 島崎今日子 2015/03/20

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TO 加藤和彦 あの素晴しい音をもう一度 (文藝別冊)  2010/2/23

 稀代の作詞家でファッションアイコンでもあった安井かずみの評伝。章ごとにゆかりの人物への取材と代表作をあわせ、多面的な人物の全体像を描くことに成功している。「自由な女」だった前半生と、加藤和彦と結婚し「理想の夫婦像」を提示した後半生が対になっているようだ。
 前半生を彩る自由な戦後文化は、高度成長と、欧米との文化格差に裏うちされたものだ。こうした幸福な享楽性はもはやどこにも存在しえない。私は吉田拓郎の章を最も興味深く読んだが、広島出身の吉田が70年代の安井が既に時代遅れだったと喝破している。つまり、張り子の虎だった東京文化が、ロック世代のより内発的な表現によって陳腐化される過程が物語られていると私には思える。「幸福な結婚」とは、本来、ロック的(サディスティック・ミカバンド)であった加藤和彦の表現が安井的な装飾を得ることで、高級そうでありながら自らの本質から離れたもの(ヨーロッパ三部作)へと変化する過程であったと云えそうだ。シンシア・レノンが「ジョンはミミおばさんに支配されて育ったので、ヨーコに抑圧される生活に戻って行った(大意)」と書いたことを思い出した。(読んだのは2013年刊の単行本)

学校で教えてくれない音楽 (岩波新書) 大友良英 岩波書店 2014/12/20

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ぼくはこんな音楽を聴いて育った 大友良英 筑摩書房 2017/09/11 - いもづる読書日記

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ことばと国家 (岩波新書) - はてなキーワード

 大友さんの文章にふれる機会も少なくはなく、音遊びの会のテレビなんかも見たので、新しい発見は少なかったかもしれない。最近、Phewさんにすごく興味があるので、このへんがつながっていることが、なんだか嬉しかった。一番啓発されたのは「あとがき」かもしれない。田中克彦「ことばと国家」を読んでみたくなった。

蘇我氏の古代 (岩波新書)吉村武彦 岩波書店 2015/12/19

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蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書) 倉本一宏 中央公論新社 2015/12/18 - いもづる読書日記

 「蘇我氏 ― 古代豪族の興亡」と重なるところが多く、両書の比較は私の手にはあまる。面白かったのは、この時代の氏名は出身地にかかわるものと職能にかかわるものがあった。「中臣」は職能、「藤原」は地名だったので、賜姓によって鎌足不比等親子は「氏が担う職能とは無関係に、人生を切り拓くことができるようになった」(209ページ)という指摘である。中臣家の傍流であった親子の独立も意味した。不比等は持統朝以降政権のフィクサーとして暗躍し(?)、記紀に象徴される皇統の正当性をでっちあげて行く(私見です)。

分かちあう心の進化 (岩波科学ライブラリー) 松沢哲郎 岩波書店

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サル学の現在 - はてなキーワード

 あの有名なチンパンジー、アイちゃんの研究をされた方。今西錦二流のサル学ではなく、心理学をベースとした、ヒトと他の動物の認知を比較する「比較認知心理学」を研究してこられた。とはいえ、京大山岳部のご出身でもあるようなので、このへんの伝統は根強い。「チンパンジー研究を通じて、自分なりに感得した4つの仮説があります。『人間の進化の過程で4つの手から2本の足ができた』、『あかんぼうのとるあおむけの姿勢が人間を進化させた』、『チンパンジー流の教えない教育・見習う学習』、『瞬間記憶と言語のトレードオフ仮説』です。」(205ページ)それぞれとても興味深いが4つ目の点だけ紹介する。コンピュータ画面に表示される数字を瞬時におぼえる課題では、チンパンジーが人間より優れた能力を示す。著者は人間が言語を獲得することで瞬間記憶能力を手放したと考える。ここからは私見だけど、視覚と聴覚の統合による内部イメージの形成が人間の抽象化能力の源泉だと思う。目や耳の形を見ると、視覚、聴覚の入力はサルもヒトもかわらないと思うが、チンパンジーには内部イメージがないのだろうか。本書は、情報を言語的に分節化することがヒトとチンパンジーをわけていると読めるが、内部イメージを参照することが、ヒトの情報処理が時間がかかることの本質ではないだろうか。(検証するためにはどんな実験をすればいいの?)

未完の西郷隆盛: 日本人はなぜ論じ続けるのか (新潮選書) 先崎彰容 新潮社 2017/12/22

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文学と非文学の倫理 吉本隆明;江藤淳 中央公論新社 2011/10/22 - いもづる読書日記

 話題の本だし「西郷どん」も終わったことだし、ちょっと読んでみましたという程度だったが、有用だった。長くなるが終章から引用する。「西郷隆盛を手がかりに、日本の『近代』を問い直した五人の思想家を俯瞰してきた。(中略)福沢諭吉は『情報革命』により、人びとが不確かな情報に翻弄され、極端な善悪二元論へと傾いていく危険性こそ近代の病理と考え、その象徴を西郷と西南戦争の敗北に見いだした。中江兆民は『経済的自由放任主義』が社会の紐帯をおびやかし、日本人から政治的自由を奪っていく状況を近代特有の現象ととらえた。(中略)大アジア主義者の頭山満は、『有事専制』が天皇から包容力を奪い、人民の意見が広く容れられる理想の政体の実現を妨げていると明治新政府を鋭く批判した。こうした閉塞感を打破してくれる象徴的存在として西郷を祭り上げたが、最終的には、自身の配下からテロリズムへ駆りたてられる狂気も生みもした。橋川文三もまた、明治新政府が作りあげた『天皇制』が日本人に閉塞感をあたえているとし、それを超克する道を西郷の南島体験に模索しようと試みた。そして最後に江藤淳は、アメリカを筆頭とする西洋の普遍的価値が、日本人から言葉を奪い、日本を全的滅亡へと導くことが近代であった、と喝破したのであった。」(239ページ)

 大日本帝国軍は死に憑りつかれていたとしか思えない。江藤淳はニ・ニ六事件が西郷挙兵の瞬間から国軍の構造に潜伏していた、敗北と滅亡に憧れる軍隊だったと考えた。西郷は島津斉彬への忠誠心を天皇へのそれに置き換えることで生き延びようとしたが、これは日本近代の集団催眠術でもあったのか。正月の一般参賀今上天皇スマホを向ける善男、善女を見て、天皇制のパターナリズムが命脈を保っているのか、判断に迷った。