インドの時代 豊かさと苦悩の幕開け 中島岳志 新潮社 2006/07/22

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from 愛国と信仰の構造 全体主義はよみがえるのか (集英社新書) 中島岳志, 島薗進 集英社 2016/02/1 - いもづる読書日記

 保守派の思想家として著名な中島氏は、大阪外語大学でヒンディー語を専攻したインドの専門家として出発されたらしい。本書で活写される現代のインドは、ライトなインド映画ファンの私にとっても随分新鮮である。日本と変わらないショッピングセンターが若年中間層の人気を集め、欧米経由の新興宗教やスピリチュアルな健康法が流行する(第2章)。ヒンドゥーナショナリズムムスリムとの軋轢を生み、漠然とした「母なるインド」のイメージが大衆を惹きつける(第1章)。伝統的な文化が解体され近代化が強要される過程で、書割にされたような疑似伝統的価値観やナショナリズムが跋扈する様子は日本と似ているようでもあるが、かの国は数百倍もエネルギッシュ。
 第3章では数ページを費やして映画「スワデース」が紹介されている。同じ映画を音楽評論家のサラーム・海上氏も紹介されていた。それから、93ページにはアイシュワリヤ・ラーイ・バッチャンが紹介されているが、彼女は「ぽっちゃりした女性」なのか、「スリムな女性」なのか?

棋士とAI――アルファ碁から始まった未来 (岩波新書) 王銘琬(おうめいえん) 岩波書店 2018/01/20 人間の未来 AIの未来 山中伸弥, 羽生善治 講談社 2018/02/09

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from 誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性 (光文社新書) 田中潤, 松本健太郎 光文社 2018/02/15 - いもづる読書日記

人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?―――最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質 山本一成 ダイヤモンド社 2017/05/11 - いもづる読書日記

 「人間の未来~」はAIへの興味から読んだが、山中伸弥の率直さにも感銘を受けた。「研究費100万円では一か月分にも足りない(大意)」(176ページ)には暗たんとしてしまった。
 どうも囲碁AIと将棋AIは違うらしい。「棋士とAI」は最前線にいる囲碁AIの現状報告として興味深い。深層学習で発展した囲碁AIが教師付き学習から教師なしの自動学習へと進んでいる。アルファ碁→マスター→アルファ碁ゼロへの道筋も示され、こうしてあとづけられるとよくわかる。囲碁AIはGoogleを代表とする大企業によって担われ、国際的な注目を集めた大プロジェクトだったのに対し、将棋AIはオープンソース化によるボランティアの集合知と、バックグラウンドが全く異なるのも面白い。囲碁や将棋のような勝ち負けというはっきりした結果がある問題はAI向きということは言えるだろう。その他の問題に対してAIが適用するときには、「評価関数」の設定が重要となるだろう。
 「人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?」でも触れたが、AIはブラックボックス化し、人間はその出力を検証することができない、できなくなるはずである。しかし、将棋でも囲碁でも「AIの手」の評価は喧しい。これは過渡期の現象なのだろうか?少なくとも「問題」の設定は人間が行うはずだ。安易なディストピア小説みたいにならずに、AIとの付き合い方を考えて行かなくてはならない。シンギュラリティ云々で騒ぐのは意味がないと思う。

愛国と信仰の構造 全体主義はよみがえるのか (集英社新書) 中島岳志, 島薗進 集英社 2016/02/1

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 政治学者と宗教学者による戦前全体主義への諸宗教の寄与に関する対話。非常に示唆が多く納得できる内容だった。下記に目次を示す。
1戦前ナショナリズムはなぜ全体主義に向かったのか
親鸞主義者の愛国と言論弾圧
3なぜ日蓮主義者が世界統一をめざしたのか
国家神道に呑み込まれた戦前の諸宗教
ユートピア主義がもたらす近代科学と社会の暴走
現代社会の政治空間と宗教ナショナリズム
7愛国と信仰の暴走を回避するために
全体主義はよみがえるのか
 ここでユートピア主義とは天皇親政による正しい社会のことであり、これが「君側の奸」によって障害されているという現状認識である。「君側の奸」の賢しらさが親鸞による「自力」の否定に結びつく。日蓮主義は積極的な社会改革を希求し動乱の原動力になって行く。教育勅語を代表とする国体教育は想像以上の効果を持ち、「1920年代あたりから『顕教』すなわち国家神道を掲げる『下からのナショナリズム』や、その影響を受けた軍部や衆議院の発言力が強くなり、『密教』(西欧並みの立憲君主制のこと、引用者註)の作動を困難にしてしまった。」(131ページ)。なるほどと思うが、川俣事件(足尾鉱毒事件、1900年)から大逆事件(1910年)に至る締め付けの歴史はどうなるんだ?と思う。
 中島の保守思想は次の発現で良く表現される。「本来、保守の思想というのは、単なる現状肯定も、理性を過信した設計主義も退けます。人間は不完全な存在ですから、誤ることもある。だからこそ、長年かけて作り上げられてきた良識や慣習を大切にしながら、変えられる部分から漸進的に変えていきましょうと考えるわけです。」(257ページ)でも、ネトウヨの跋扈は保守思想が生んだものじゃないの?それとも硬直化した左翼による言論封殺がいけなかったの?こうした、手近な「君側の奸」を探すアチチュードがいけないの?

差別と日本人 (角川oneテーマ21 A 100) 辛淑玉, 野中広務 角川グループパブリッシング 2009/06/10

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from 拉致と日本人 蓮池透, 辛淑玉 岩波書店 2017/06/28 - いもづる読書日記

 

 1/26に亡くなった野中広務辛淑玉の対談。対談の間に辛淑玉の文章がはさまる「拉致と日本人」と同じような構成だが、辛淑玉の対決姿勢、肩に力が入った感じはこちらの方がずっと強い。出版時点で野中は84歳、政界引退から6年、よくこんな対談をうけたものだと思う。
 野中広務の部落差別に対するスタンスは、自らの出自を明らかにしたうえでの「革新」の偽善性批判で、これは非常に有効だった。「1982年3月3日、水平社創立60周年の記念集会で、野中広務副知事は以下のようにコメントした。『全水創立から60年ののち、部落解放のための集会をひからなければならない今日の悲しい現実を、行政の一端をあずかる一人として心からお詫びします。私事ですが、私も部落に生まれた一人であります。私は部落民をダシにして利権あさりをしてみたり、あるいはそれによって政党の組織拡大の手段に使う人を憎みます。そういう活動を続けてるかぎり、部落解放は閉ざされ、差別の再生産がくりかえされていくのであります。』」(102ページ)本書の対談ではいかに血の通った政治を目指したかが語られる。vulnerableな部分に対する感受性の強さと発言の率直さが印象的だった。

「風と共に去りぬ」のアメリカ―南部と人種問題 (岩波新書) 青木冨貴子 岩波書店 1996/04/22

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from 昭和天皇とワシントンを結んだ男―「パケナム日記」が語る日本占領 青木冨貴子 新潮社 2011/05 - いもづる読書日記

to GHQと戦った女 沢田美喜 (新潮文庫) - はてなキーワード

 「昭和天皇とワシントンを結んだ男」の青木冨貴子さんの旧著。何割黒人の血が入ったら黒人かという話が出てくるが、ハリー王子とメーガン・マークルさんの結婚式(2018/5/19)を見ながら、印象深く思った。
 

日本海軍はなぜ滅び、海上自衛隊はなぜ蘇ったのか 是本信義 幻冬舎 2005/10

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From 海の地政学──海軍提督が語る歴史と戦略 ジェイムズスタヴリディス 早川書房 2017/09/07 - いもづる読書日記

永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」 (文春新書) 早坂隆 文藝春秋 2015/06/19 - いもづる読書日記

TO 逆説の軍事論 - はてなキーワード

 

 陸軍と海軍というのは違う目的を持った組織なのかもしれない。陸は生活の場だが多くの人にとって海は異界だ。海軍はシーレーンの確保が第一目的で、そのパワーをどう活かすかは政治の問題ということだろう。本書は旧海軍の問題点を指摘し、解体された海軍から海上自衛隊がどう再構成されていったかを語る。旧軍の悪弊を正し、米海軍の御指導の許、論理的で精緻な一級の海軍力を身に着けるに至ったかの成功物語?だ。
 というわけで、筆致はいかにも楽観的で批評に乏しい。「したがって、堂々たる軍隊の形をとってはいても、実際に運用する際の根拠となる法規の原点は、警察官職務執行法なのである。そして認められている権限は、『現行犯逮捕』と『正当防衛』、『緊急避難』の三つに過ぎない。(中略)確かに海上自衛隊は優れた防衛力を持っている。しかし法制上、それを使用する権限がなければ、文字どおり『宝の持ち腐れ』となってしまう。」(259ページ)正しい現状認識だろう。しかし、軍隊を正しく運営する方法を私たちは知らない。考えたこともない。自衛隊は警察官の延長で、いわば市民の延長であるのに過剰な武器を持たされた危険な存在と見ることもできるだろうし、宝の持ち腐れはすなわち単なる無駄遣いだ。自衛隊はおそらく米軍の一部であり、おもいやり予算同様我々が便宜供与しているに過ぎない。このため、私たちが軍事力の運営に必要な戦略、技術、法制度を欠いていてもさして問題にはならないわけだ。本書にも表れるように自衛隊の側にも自分たちが有事にのみ活用されるべき特殊な存在で、平時はあたかも存在しないように振舞うべきだという自制が欠けている。大日本帝国が罹患していた病理は軍隊の非論理性だけではなかった。議論があるべきだと思うのだが。
 

拉致と日本人 蓮池透, 辛淑玉 岩波書店 2017/06/28

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 それまでの日本の外交方針はいわゆる「土下座外交」で、北朝鮮に対しても言いたいことも言えない状態だったが、急展開したのが2002年の日朝首脳会談だった。それ以来、中国、韓国、北朝鮮への対抗姿勢と、不安感を煽ることによる右傾化誘導が外交、内政の基調音になっている。一度落ち着いていろいろなことを自分の頭で考えてみる必要があるのではなかろうか。本書は家族会の政治利用に疑問を持ち家族会を離脱した蓮池透氏と最近、過熱化するヘイトスピーチに危機感を感じドイツへ移住した辛淑玉氏の対談。辛淑玉の目線というコラムがはさまる。
 「植民地支配下で行った残虐行為の仕返しがくるという恐怖心、『こっちが弱くなったらやられる』という恐怖心が常にこの国の根底には流れている。その恐怖心にかられて関東大震災時に朝鮮人を殺戮したように、戦後も、やはり朝鮮人からの復讐を怖れていきたたのだ。」(51ページ)。
 「辛 マスコミが味方になったときはありましたか? 蓮池 一度ありました。二〇〇二年の九月一七日、日本政府が、『拉致被害者五人生存、八人死亡』という北朝鮮側の発表を確認することもなく鵜呑みにしたときです。私たちは記者会見を開いて、『発表には信憑性がない』『私たちは未確認情報を(日本政府から)断定的に伝えられた』と強調したんです。そうしたらマスコミは『死亡した拉致被害者』という表現から『北朝鮮により死亡とされた拉致被害者』に改めてくれた。」(83ページ)
 「北朝鮮への恐怖心を煽ることには、政権にとっても軍需産業にとっても、計り知れないメリットがある。北朝鮮と交渉することも、仲良くすることも、全て『反日』と決めつけて、いくらでも糾弾できるからだ。マスコミにとって『家族会』『救う会』は、新たなタブーとなった。そして、多くのメディアが沈黙した。『救う会』は、拉致問題が解決しないでいる限り、存在理由を担保していられる。」(118ページ)