新しい世界史へ――地球市民のための構想 (岩波新書) 羽田正 岩波書店 2011/11/19

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本書の著者はヨーロッパ中心の歴史観に中国史イスラーム史を接木した「日本の世界史」が気に入らない。著者はイラン史、イスラーム史の専門家に飽き足らなくなり、では大風呂敷を広げようかとなったらしい。その意気や良しである。そういえば私の高校の世界史の先生は史観が大事だと言っていた。「様々な史観があったが、現在(40年前)の主流は経済史観だ」と。マルクス派でも非マルクス派でも経済を契機に考えることで客観性が得られるという意味のことを言っていたと思う。
網野善彦は多くの業績を残し、「日本史の再発見」に大きな役割を果たした。彼の著作には常に多くの独自の視点が盛り込まれ、そこに網野史観とも呼べる筋が通っていたように思う。もちろん、史観が先にあったわけではなかろう。史料の渉猟と不断の思考から生み出されたものであろう。是非羽田史観が盛り込まれた歴史書が読みたい。

文学と非文学の倫理 吉本隆明;江藤淳 中央公論新社 2011/10/22

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吉本隆明 江藤淳 全対話 (中公文庫) - はてなキーワード

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江藤淳という人 福田和也 新潮社 2000/06 - いもづる読書日記

永遠の吉本隆明[増補版] 橋爪大三郎著 洋泉社新書Y 2012年 - いもづる読書日記

吉本隆明という「共同幻想」 呉智英著 筑摩書房 2012年 - いもづる読書日記

「知の巨人」と「最後の文士」の対談、出版されたのは江藤の没後で吉本存命中、本年2月に中公文庫で再刊されているらしい(解説は高橋源一郎)。5回の対談が収録され、それぞれ1966年、70年、70年、82年、88年に行われている。
江藤は吉本より8歳年小だが、亡くなりかたもあってか随分早く古びたと感じる。本書を読んで私的には大いに評価が上がった。さながら剣豪の果し合いのようだが、切っ先は江藤が勝っている場面が多かった。たとえば、吉本はマルクスの思想の共同性は他者を必要としないということから、孤立的に存在した知識人の生み出した文化、文学が時代を本当に転換する、共同性になりうると述べる(59ページ)。これに対し江藤は「マルクスのことはよく知りませんけれど(中略)なぜそれだけ正確な世界認識が行えたのか(中略)それがキリスト教を逆転したかたちで西欧文化の根底、民俗学の底にあるようなものにまで触れていた。だからこそ後世あれだけの階級的憎悪を組織できた」(61ページ)と返す。ゾクゾクするほど鋭い。

「保守」とはたぶん現状変更の必要が無いという考えかたで、変えない方がましという諦念を背景にしていると考える。この点、保守「思想」とか保守「主義」というのは形容矛盾ではないだろうか。本書では「幸福」ということばが使われている。江藤「漱石という人は非常に孤独な人だったと思うけど、漱石の作品は不思議に読者を孤独にしない。(中略)それは彼が個体を越えるなにかの感覚をもっていたからではないか。」(68ページ)この感覚を幸福とか伝統とよんでいる。これを「江藤淳という人」とあわせてみると、書割めいた大衆社会への憎悪、失われた幸福への憧憬と単純化してみたくなるが、たぶん違うんだろうな。

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書) 呉座勇一 中央公論新社 2016/10/19

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戦争の日本中世史: 「下剋上」は本当にあったのか (新潮選書) - はてなキーワード

南朝研究の最前線 (歴史新書y) - はてなキーワード

闇の歴史、後南朝 後醍醐流の抵抗と終焉 (角川ソフィア文庫) - はてなキーワード

異形の王権 (平凡社ライブラリー) - はてなキーワード

 

内藤湖南によって日本史最大の事件とされた応仁の乱をリアルに、ダイナミックに描いた話題の書。著者は奈良興福寺の僧侶であった経覚(きょうがく)、尋尊(じんそん)の日記という一級資料によって「戦乱の渦に巻き込まれた人々の生態をそのまますくい取る」ことに成功した。
応仁の乱は東軍に将軍足利義政、義直、西軍に足利義視があったが、西軍は南朝皇胤を抱き込んで権威の強化を図ったそうだ。南朝皇胤の政治性というか胡散臭さに心魅かれる。貴種流離譚の美しさではなく、田舎の三文芝居のような権威がロマンチックだと思う。この後室町幕府も二人の将軍が並立するようになり、やがて織田信長に滅ぼされる。しかし、そこにも虚構と区別のつかない権威の力学が存在していたように思う。

108年の幸せな孤独 キューバ最後の日本人移民、島津三一郎 中野健太著 KADOKAWA 2017/01/25

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戦前のキューバに渡り108歳まで現地で生きた島津三一郎さんの人生をたどり、日系移民の目に映ったキューバ史を活写した快著。戦争、強制収容、革命、キューバ危機、社会主義体制下の保健制度、移民、亡命といった様々なテーマが並ぶ。キューバを語るうえでブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブは必須項目になってきたようだが、彼の国は決して老人の国ではなくむしろ若々しい印象がある。村上龍が一時キューバづいていたけど、どの本を読めばいいのかな?

バブル:日本迷走の原点 永野健二 新潮社 2016/11/18

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 私は自他ともに認める経済音痴なのだが面白く読んだ。事件史のような形式で一章が比較的短くテンポが良い。やや掘り下げが足りなく感じるがそれでこのボリュームなのだから、マテリアルが豊富で大きなテーマだということだろう。私はバブル期を体験しているのだが、書かれている事件の半分以上を知らなかったし、残りも皮相的な理解しかしていなかったことを感じた。それでもバブルが日本人の心性を変えたというテーゼは首肯せざるを得ない。日本の歴史におけるバブルの位置づけについて、より思弁的なアプローチが期待される。
 著者はNTT株上場フィーバーに触れ次のように述べる。「バブルは資本主義のエネルギーを増殖する。そして資本主義は、その功罪を運動のなかに巻き込みながら、深化し発展していくものなのである。」(124ページ)あまり賛成できないが至言と思う。この直感的な言葉を是非論証してみてほしい。

一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート 上原善広 角川書店 2016/07/01

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石の虚塔: 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち - はてなキーワード

異貌の人びと ---日常に隠された被差別を巡る - はてなキーワード

被差別の食卓 (新潮新書) - はてなキーワード

日本の路地を旅する (文春文庫) - はてなキーワード

聖路加病院訪問看護科―11人のナースたち (新潮新書) - はてなキーワード

 

 面白かった。溝口和洋さんは世代的には知っているべきと思うが、全く知らなかった。「最後の無頼派アスリート」が正しい呼称かわからないが、スポーツノンフィクションの格好の素材だと思う。にもかかわらず、知られていなかったという事実に日本のマスコミの性格が現れているかもしれない。取材者がヤワだったからか?
 主人公の一人称で綴ったのが著者の工夫であるが、それ以上に筆力の充実を感じた。私は上原ファンなのでバイアスはかかっているか、溝口のこだわりと繊細さを描くことに成功していると思う。上原が溝口に対抗する個性の持ち主だったかどうかわからないが、ジャーナリズムから距離があったことが幸いしたかもしれない。

1984年のUWF 柳澤健 文藝春秋 2017/01/27

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from 日本史を精神分析する―自分を知るための史的唯幻論 岸田秀, 柳澤健 亜紀書房 2016/12/24 - いもづる読書日記

 完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫) - はてなキーワード

 私、プロレスの味方です―金曜午後八時の論理 (1980年) (Century press) - はてなキーワード

 

 「1976年のアントニオ猪木」は猪木信者の悪魔祓いの書だったが、本書の俎上にのるのはUWF。私は1・2の三四郎 2で格闘技ファンが戯画化されていたことに快哉をあげた旧プロレスファンであったが、UWFもイノキイズムのカルトと捉えれば根は同じか。「私、プロレスの味方です」のバランスの取れたファン目線が今となっては好ましい。
 日本人はプロレスを相撲のアナロジーと捉えているのかもしれない。異形の巨人が繰りひろげる神事と考えれば、猥雑で豊かな方がスポーツ的な明快さよりも相応しいのかもしれない。イノキイズムもプロレスの祝詞だったのかもしれないし、今、脱洗脳されて呆けている私たちも大きなストーリーの一部なのかもしれない。