食肉の帝王―巨富をつかんだ男 浅田満 溝口敦 講談社 2003/05

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路地の子 上原善広 新潮社 2017/06/16 - いもづる読書日記

薬物とセックス (新潮新書) 溝口敦 新潮社 2016/12/15 - いもづる読書日記

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サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う - はてなキーワード

 「路地の子」の参考書として読んだ。まあ、あちらは文学、こちらはリアルということなのだろう。きちんと取材したと繰り返し述べられているのは、やたらな事は云えないという緊張感のなせる業か。浅田満の実像は、意外に次の太田房江大阪府知事による要約があたっているのではないか、と思った。「やはり牛肉の自由化をやられた方だと聞いてますし、特に羽曳野において、と畜から加工までを一貫体制にして、付加価値を上げていくというか、経営を合理化して、安定化していく。一言でいえば食肉産業の振興ということでリーダーシップを発揮された方という認識は(中略)持っていました。」(101ページ)。

GHQと戦った女 沢田美喜 青木冨貴子 新潮社 2015/07/17

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「風と共に去りぬ」のアメリカ―南部と人種問題 (岩波新書) 青木冨貴子 岩波書店 1996/04/22 - いもづる読書日記

昭和天皇とワシントンを結んだ男―「パケナム日記」が語る日本占領 青木冨貴子 新潮社 2011/05 - いもづる読書日記

 占領期に米兵と日本人女性の間に生まれ、孤児となった子供を育てる「エリザベス・サンダース・ホーム」を創った沢田美喜の評伝。三菱財閥の娘に生まれ、外交官である沢田廉三と結婚した後は夫の任地で交友を広め(パール・バック、ジョセフィン・ベーカー!)、培った国際感覚と語学力、岩崎彌太郎ゆずりの頑固さで進駐軍とわたりあった。「ホーム」は美談だけではなく、GHQ財閥解体方針への抵抗という側面もあったようだし、接収された麹町「サワダ・ハウス」はGHQの情報組織が入ったこともあり、美喜や廉三が果たした役割に様々な憶測があるようだが、本当のところはよくわからない。多くの人のインタビューし、米公文書館で調査もしたとのことだが、まあ、隔靴掻痒の感は免れない。
 女傑と呼べる人間がいたことは間違いなかろうが、身近な人間にはより大きく見えるものだ。美喜は私の祖父の2歳年長ということになるが、そうした一族の伝説のようなものが昔はあったように思う。階級性が、武士社会の残り香があった時代ゆえだろうか。土佐のいごっそうが「異骨相」であることは初めて知った。

薬物とセックス (新潮新書) 溝口敦 新潮社 2016/12/15

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TO 食肉の帝王―巨富をつかんだ男 浅田満 - はてなキーワード

 

 題名はスキャンダラスで、内容も十分に週刊誌的だが、取材の行き届いたちゃんとしたところはちゃんとした本。第3章「薬物の闇ビジネスはどうなっているか?」には乱用薬物の種類・作用という表が掲げられ、中枢薬理学を学びたい人にも有用。MDMAやTHCが目新しいところだが、従来の薬物のスペクトルを超えるものではないことが解る。
 人間はケミカルマシーンだという議論が以前はあったが、少なくとも脊椎動物より高等な生物は同じような神経伝達システムを持っているのだから、薬物依存はやはり肥大した脳による内部イメージを持ってしまったことの副作用だと捉えるほうが正しいのではないだろうか。性行為は本能でやっているのではないのだよという岸田秀的な結論に、この件については走りたい衝動に---、私を駆り立てているのは何?

タイワニーズ 故郷喪失者の物語 野嶋剛 小学館 2018/06/08

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銀輪の巨人 野嶋 剛 東洋経済新報社 2012/6/1 - いもづる読書日記

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台湾とは何か (ちくま新書) - はてなキーワード

 

 台湾は元々住んでいる人々(内省人)と大陸からやってきた国民党関係者(外省人)がおり、中華人民共和国との関係を含めて様々な政治的な立場がある。内省人も一枚岩ではなく、台湾に定住した時期やエスニシティに応じて一概には語れない。本書は日本で活躍する/した台湾出身者(タイワニーズ)を紹介することで、複雑な台湾社会を映し出そうとしたもの。
 11人の登場人物のうち、陳舜臣の生涯が興味深かった。1924年に台湾出身の父の子として神戸に生まれる。1946年に台湾にわたり、1947年の二・二八事件に逢い、1949年に日本に戻る。想像もできない過酷な体験だっただろう。その後、作家となったが、上記国民党の民衆弾圧も題材としたため台湾にわたることはできなくなった。1973年に中華人民共和国籍を取得するが、1989年の天安門事件を公式に批判し同国籍を放棄。「陳舜臣は、一度は心を許しかけた中華人民共和国に対する急転直下の失望によって、3度目の『祖国喪失』を経験した、と言えるだろう。」(254ページ)「陳舜臣の口からは、国家や権力に対するシニカルな言葉は語られていない。それは、(中略)権力を否定することよりは、権力の生み出す物語に自らの執筆の意義を見出したのかもしれない。(中略)『勝ち負けより、負けた時に何をするかが大事だ。』」(259ページ)

死ぬまでに学びたい5つの物理学 (筑摩選書) 山口栄一 筑摩書房 2014/05/13

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イノベーションはなぜ途絶えたか: 科学立国日本の危機 (ちくま新書1222) 山口栄一 筑摩書房 2016/12/06 - いもづる読書日記

 

 「イノベーションはなぜ途絶えたか」の著者の旧著。ニュートン、ボルツマン、プランクアインシュタイン、ドゥ・ブロイらの「知の創造」物語と、著者による解説。囲碁は入門の次が難しく、ルールを覚えてからそれなりに打てるようになるまでが大変だそうだ。入門書の次に読むとされる本が突然難しくなってついていけなくなる。この本の解説は高校物理学の一歩先を学べる、最良の参考書かもしれない。
 第5章「科学はいかにして創られたか」は旧著でも述べられたイノベーション進展の態様だが、より具体的で、より説得力があると思う。科学が自走的に進展する段階、社会に影響を与えず、研究者の暗黙知で展開する段階を著者は「夜の科学」と呼ぶ。何やらロマンチシズムを感じるが、現代の学界はもう少し生臭い。論文化より特許を優先する傾向とか、GLPとか「夜の科学」の自立性を脅かす状況が研究者の首を絞めつつある。人工的な照明が暗闇の魔法を無力化するかのようだ。魔力を失った魔法使いは道化として生きるのか?

AI vs. 教科書が読めない子どもたち 新井紀子 東洋経済新報社 2018/02/02

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誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性 (光文社新書) 田中潤, 松本健太郎 光文社 2018/02/15 - いもづる読書日記

人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?―――最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質 山本一成 ダイヤモンド社 2017/05/11 - いもづる読書日記

 

 著者はAI開発に携わる数学者。「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを主導されている。自然言語処理を行うAIも意味が分かっているわけではない、真のAIは存在しない、シンギュラリティは到来しないと辛口の記述が続く。第3章は中学生、高校生が論理的な読解力に劣っていることを示す。AIにとって替わられない仕事を行うためには、状況を分析し理解する能力が必要だが、現在の中高生はかなり危機的な状態にあるということだ。
 知識と論理は十分、データの裏付けも豊富で浮世離れしているわけでもない。でも、あまり良い読後感はしない。こういう確固たるコンセプトは、こういう露骨に聞き書きの体裁ではなく、もっとちゃんとした文体で出版されることをお勧めするなあ。状況論的な話になるといきなり床屋政談になってしまうのも理系ならではか。

 

蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書) 倉本一宏 中央公論新社 2015/12/18

蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書) - はてなキーワード

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聖徳太子と日本人 大山誠一 風媒社 2001/05/25 - いもづる読書日記

倭国の時代 岡田英弘 筑摩書房 2009/02/01 - いもづる読書日記

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蘇我氏の古代 (岩波新書) - はてなキーワード

大化改新を考える (岩波新書) - はてなキーワード

 

 推古帝時代というか聖徳太子の時代に重要な役割を果たした蘇我氏の歴史を語った本。蘇我氏は始祖である稲目の時代に興った葛城系の氏族(朝鮮半島出身ではない)。馬子、蝦夷、入鹿と天皇家と姻戚関係を結び興隆した。乙巳の変蝦夷、入鹿は亡くなり、本宗家は亡んだが、蝦夷の甥である石川麻呂に始まる蘇我倉氏は大化の改新以降も勢力を保った。その後石川氏、宋岳氏と名前を変え、中級官僚として平安時代まで延命した。著者の主張は明快である。
 藤原不比等蘇我倉氏の連子の娘である娼子を妻としていたとのことである。「蘇我氏は大王家の母方氏族として、また大化前代における大臣家として、その尊貴性を認められてきた。そしてその認識は律令制の時代に至ってもなお、旧守的な氏族層、あるいは皇親の間に残存していた可能性が強い」(186ページ)。しかし、ここから時代は蘇我氏から藤原氏のものへと移っていく。
 壬申の乱について筆者は、「天智としてみれば、乙巳の変以来、(中略)自身と鎌足の二人による専制支配を続けてきた結果が、晩年に自己の王子の政権基盤として頼みにする藩屏がこれだけ(わずか4つの氏族、引用者注)に過ぎないという事態につながったのである」(160ページ)と述べている。氏族、血筋をめぐる物語の政治性がときには必要ということか。