吉本隆明という「共同幻想」 呉智英著 筑摩書房 2012年

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 若いころに「インテリ大戦争」を愛読した。吉本の名前も呉智英に教えて貰ったと思う。名古屋出身でない名古屋市民としては、呉や三遊亭円丈の不機嫌そうな顔を見ると名古屋人だなあと思う。この毒気が非名古屋人にも魅力なのであるがそればかりだと辟易としてくる。本書は吉本の言葉を平易に翻訳するなど著者一流の皮肉に満ちているが、批判本というほど腰の据わったものではない。そもそも市井の思想家、原理主義者といった点で呉と吉本は共通点が多いと私は思う。吉本に対する尊敬の欠如が本書に満載された皮肉を単なる皮肉にしていて残念である。照れているのだろうか?

 吉本隆明は敗戦という経験ともっとも真摯に向かいあった現代人だったのではないだろうか。「吉本隆明、自著を語る」を読むと苛烈な転向者、非転向者に向けた批判に込められたまっすぐな気持ちが伝わってくる。主知主義原理主義は戦争を生む。しかし、保守思想に流れず主知主義的思考を貫徹したのが吉本だったと考えている。