日本史を精神分析する―自分を知るための史的唯幻論 岸田秀, 柳澤健 亜紀書房 2016/12/24

日本史を精神分析する―自分を知るための史的唯幻論 - はてなキーワード

 

 本書はプロレス本を立て続けに出している柳澤健が日本史の話題を提供し、これを岸田秀がいつもの調子で斬っていくというメインパートの後、岸田の筆になる「日本はなぜ戦ったか」と題する補論が述べられる。ほぼ全編を埋め尽くしているのはコンプレックスがドライビングフォースになった歴史の展開であり、その昔「ものぐさ精神分析」を読んで感じた感銘は得られなかった。
 補論では、「日米戦争で日本人はあれほど大きな犠牲を払って必死に戦ったのになぜ負けたのか」が考察される。岸田によれば問題はよくいわれる物量の差などではなく、作戦の拙劣さ、日本軍の組織の問題、犠牲を払って得られる栄光というヒロイズム、強気論が支配しがちな空気に迎合する性質、当事者の責任の不明確等々であり、「日本軍を必然的に敗北へと導いた構造的欠陥は現代日本の省庁、政党、企業、大学など、あらゆる組織にそのまま温存されていて、日々、想像を絶する多大の被害をもたらしている」(275ページ)。ある意味、こういう言葉が聞きたかった。独立国家として立ち上がりたいという望みがあるなら、過去と真正面から立ち向かう覚悟が必要なのは明らかである。そうでなければ、戦後というぬるま湯の中にいつまでもとどまり続けるしかない。