安井かずみがいた時代 島崎今日子 2015/03/20

安井かずみがいた時代 (集英社文庫) - はてなキーワード

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TO 加藤和彦 あの素晴しい音をもう一度 (文藝別冊)  2010/2/23

 稀代の作詞家でファッションアイコンでもあった安井かずみの評伝。章ごとにゆかりの人物への取材と代表作をあわせ、多面的な人物の全体像を描くことに成功している。「自由な女」だった前半生と、加藤和彦と結婚し「理想の夫婦像」を提示した後半生が対になっているようだ。
 前半生を彩る自由な戦後文化は、高度成長と、欧米との文化格差に裏うちされたものだ。こうした幸福な享楽性はもはやどこにも存在しえない。私は吉田拓郎の章を最も興味深く読んだが、広島出身の吉田が70年代の安井が既に時代遅れだったと喝破している。つまり、張り子の虎だった東京文化が、ロック世代のより内発的な表現によって陳腐化される過程が物語られていると私には思える。「幸福な結婚」とは、本来、ロック的(サディスティック・ミカバンド)であった加藤和彦の表現が安井的な装飾を得ることで、高級そうでありながら自らの本質から離れたもの(ヨーロッパ三部作)へと変化する過程であったと云えそうだ。シンシア・レノンが「ジョンはミミおばさんに支配されて育ったので、ヨーコに抑圧される生活に戻って行った(大意)」と書いたことを思い出した。(読んだのは2013年刊の単行本)