ことばと国家 (岩波新書) 田中克彦 岩波書店 1981/11/20

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学校で教えてくれない音楽 (岩波新書) 大友良英 岩波書店 2014/12/20 - いもづる読書日記

 

 本書を読んで、構造主義解説本のたぐいを初めて読んだときに味わった、ソシュール言語学の見事な明快さを思った。本書は「一般に19世紀以来の言語学は、それ自体としての言語をとり出すための努力の連続であったとも言え、その点からすれば、ソシュール以前の歴史言語学ソシュールの没歴史言語学とのあいだには、いかなる断絶もない。言語学が科学になるためには、ことばに加えられている、あるいはことばに等級をつけて差別するあらゆる外的な権威を剥ぎとっていかなければならない。」(22ページ)とするが、にもかかわらず言語学がいかに政治的なものであったかが繰り返し述べられる。ことばが思考というよりは認識=分節化の手段であることから、ことばから歴史的、政治的な背景を剥ぎとることは存外難しい。言語による思考の修飾はあたかも深層心理のようだ。「人間の解放は決して言語学だけがやるものではないが、さまざまな社会的形態をとりつつ、人々をそこにしばりつけ、あらゆる差別と偏見を生みだす動機になっている言語を相手にしているかぎり、言語の科学はその役割から逃れるわけにはいかない。」(216ページ)