そろそろ、人工知能の真実を話そう ジャン=ガブリエルガナシア 早川書房 2017/05/26

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AI vs. 教科書が読めない子どもたち 新井紀子 東洋経済新報社 2018/02/02 - いもづる読書日記

 ホーキング、イーロン・マスクビル・ゲイツ、トーマス・クーンといったこのテーマに相応しい人々とともに、ボードレールバシュラール、シュペングラー、マキャベリエリアーデニーチェといった面々が、(その他の聞いたこともない方々とともに)引用される。著者はシンギュラリティを巡る「言説」に着目し、鋭い批判を加える。

 グノーシス主義古代オリエントに存在した神秘思想であり、キリスト教は自らの内部のグノーシス的要素を否定することでアイデンティティを確立した。著者はこのグノーシス主義一神教の関係が、シンギュラリティと現代科学の関係を理解するのに役立つと考える。グノーシスの特徴を以下の四点に要約している。「第一に、不完全な世界の元凶である偽りの神とそれに支配力を奪われた真の神の対立、第二に、ロゴス(論理)よりミトス(物語)を重視すること、第三に、精神と物質を完全に分けて考える二元論、そして最後に、やがて大変動が訪れ、時間の断絶を経て真の神の世界が到来するとしていることである。」(87ページ)これらとシンギュラリティ派の思想的特徴の類似性を指摘した上で、次のように述べる「ここで恐ろしいのはシンギュラリティの描くシナリオ自体ではなく、ジャンルが混ざり合い、それぞれの境界が侵されてしまっていることだ。高名な科学者や大企業のトップ、著名な技術者といった人々が、自分の影響力を利用して、通俗的な空想物語を人々に信じこませようとしているのだ。誤解のないように言っておくが、科学者が人々を楽しませるためや、知識を伝えるために空想の物語を作る権利を、誰も取りあげることはできない。しかし、それがフィクションであるか、科学的な方法に基づいた主張であるかは厳密に区別する必要がある。」(131ページ)極めて鋭く、説得力のある論考である。