子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から ブレイディみかこ みすず書房 2017年4月17日

子どもたちの階級闘争:みすず書房

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ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち J.D.ヴァンス 光文社 2017/03/15 - いもづる読書日記

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4章分全文公開『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 特設サイト | 新潮社

ポスト・パンクとは何だったのか?その軌跡を紐解くガイドブック『POST PUNK DISC GUIDE BOOK 1978-1982』 | more records

「僕はイエローで~」で注目されている著者のノンフィクション作品。前半は「緊縮託児所時代2015-2016」で後半が「底辺託児所時代2008-2010」、舞台は同じ託児所だが、状況が異なる。「(底辺託児所の)利用者は大まかに三つのタイプに分かれた。まず一つ目はアナキスト、戦う激左と呼ばれる人々である。彼らは高学歴で育ちのいい人も多く、自らの意思でミドルクラスから下層に降りてきたヒッピー系インテリゲンチャたちだった。(中略)そして二つ目はいわゆる公営住宅地のチャブ系である。彼らの中には親子三代生活保護で生きているというような、ダイハードなアンダークラス民もいた。そして三つ目が、英国に来て日も浅い外国人だ。(中略)で、いまや閑散としている緊縮託児所からは、一番目と二番目のタイプが消えていた。友人によれば、みんな生活保護を打ち切られて社会復帰したのだという。」(17ページ)もちろん、社会復帰などしていない。彼らは切り捨てられたのだ。そして、緊縮財政がアンダークラス社会にもたらしたのがタイプ間の分断だった。「ここはもともと彼女たち(引用者注:ムスリムの母親たち)が忌み嫌っているタイプの英国人(引用者注:生活保護クラス)が利用していた場所で、移民こそがマイノリティだった。(中略)しかしあの頃は、利用者の人数が多く活気があったせいもあり、『見た目は怖いけど話てみたら結構ひょうきんでいい人だった』とか『生活はちょっと乱れているけど、優しい人』とか、移民と下層の英国人たちが生身で触れ合い、会話することによってステレオタイプとは違うものを垣間見るというか、じーんとするようないい話も生まれたものだった。」(70ページ)自由主義経済がもたらしたこうした分断が、ブレグジットの背景にあることがよくわかる。
本書についていいたいことは二つあって、自分の中でははっきりしているのだが、ちゃんと伝わるかどうかわからない。著者はジョン・ライドンを人生の師とするパンク世代だ。パンクはそれまでのロック(ストーンズやクィーン)を否定する形で登場したが、ロック音楽の自浄作用としてとらえられると考える。ロックはスリーコード・ロックンロールに立ち返ることで自ら蘇生した。そこには閉塞した社会でやぶれかぶれに暴れた爽快感があった。パンク以前と以後は全くものの見え方が違う影響力があった。パンク世代はこの体験が価値基準として定着している。だが、ジョン・ライドンの本質というかアイデンティティはワーキングクラスということにある。日本人にとって、肌感覚としてイギリスの階級社会を理解することは難しい。本書はアンダークラスの実像を描くことで、幻影にすぎなかったパンク・アチチュードにはっきりした輪郭を与えている。「底辺託児所と緊縮託児所は地べたとポリティックスを繋ぐ場所だった。だけとそれは特定の場所だけにあるわけではなく、そこらじゅうに転がっているということをいまの私は知っている。地べたにはポリティックスが転がっている。」(おわりに)