現代音楽史 闘争しつづける芸術のゆくえ 沼野雄司 著 中公新書 2021/1/19

現代音楽史|新書|中央公論新社

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心を病んだらいけないの?―うつ病社会の処方箋― 斎藤環 、與那覇潤 新潮社 2020/05/27 - いもづる読書日記

高橋悠治という怪物 青柳いづみこ著 河出書房新社 2018.09.25 - いもづる読書日記

恋する文化人類学者 鈴木裕之著 世界思想社 2015/01/20 - いもづる読書日記

現代音楽の通史をコンパクトに描いた労作。著者は現代音楽を既存の形式に闘いを挑んだ運動と捉える。「ファシズムの擡頭から戦争へと至る真空地帯のなかで宙吊りにされていた音楽様式は、ここ(第二次大戦後、引用者注)にきて猛然と変貌を始めた。それはほとんど『発作』ともいうべく性急な変化だったといってよいだろう。」(110ページ)「心を病んだらいけないの?」の斎藤環の言を借りれば、これは実存主義人間主義の段階だったが、本書の著者も1968年にその流れの断絶を見る。構造主義=反西欧主義=反人間主義的な観点から、反省が起こる。現代音楽に対するレヴィ・ストロースの批判(文節の基準がひとつしかないという記号体系を築くという二十世紀の夢)を著者は「戦後のヨーロッパ音楽が目指してきた、一義的な論理体系が批判されている」(185ページ)と請ける。「ウェーベルンから戦後のセリー音楽へと続く『冷たい』モダニズムの流れに対して、調性や拍節、そして表現や物語性のゆるやかな復活が七十年代後半から徐々に目立ってくるのである。(中略)こうした音楽様式は、ポストモダン建築の場合と同じく、一種の折衷主義ともいえる。」(213ページ)
本書の「はじめに」に「気になった作品はYouTubeで探してみて」と書かれている。実に楽しい時間を過ごすことが出来た。

THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本 2016/8/17 ブレイディみかこ著 太田出版

『THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本』特設ページ - ブレイディみかこ/太田出版

ブレイディみかこ 『THIS IS JAPAN―英国保育士が見た日本―』 | 新潮社

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労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱 ブレイディみかこ著 光文社新書 2017年10月17日 - いもづる読書日記

僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー ブレイディみかこ著 新潮社 2019年6月21日 - いもづる読書日記

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亜紀書房 - そろそろ左派は〈経済〉を語ろう レフト3.0の政治経済学

2015年に一か月帰国し、各所に取材して描かれた日本の描像。丁度安保法制のころで、SEALDsのデモ(年齢層が高くない?)も登場する。そういえばそんなこともあったな、と思う。社会運動の堂々巡りよりも、それを「クソ左翼」と断じる、アーバンな人々の病理の方が問題にされるべきと思うが、オリンピックを控えた昨今の閉塞感に、この国がより悪い方向に進んでいることを実感させられる。
「英国に20年刊住んでいるわたしにとって、『人権って何ですか?』という質問を口にする人がいたことはある種の衝撃として心に残った。(中略)英国社会にはあらゆることを法的に、または法的ではない方法で訴える人が多くて、しょっちゅう揉め事が起きているのだが、それらの根底にあるのが人権の意識である。」(206ページ)「日本の社会運動が『原発』『反戦』『差別』のイシューに向かいがちで経済問題をスルーするのと同じように、人権教育からも貧困問題が抜け落ちているのではないだろうか。まるでヒューマン・ライツという崇高な概念と汚らしい金の話を混ぜるなと言わんばかりである。が、人権は神棚に置いて拝むものではない。もっと野太いものだ。」(208ページ)

調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝 近田春夫 リトルモア 2021/01/28

「調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝」書評 流転を続けて「袖で見る」音楽史|好書好日

調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝の通販/近田春夫/下井草秀 - 紙の本:honto本の通販ストア

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細野晴臣と彼らの時代 門間雄介 文藝春秋 2020年12月17日 - いもづる読書日記

JOHNNY TOO BAD 内田裕也 モブ・ノリオ 内田裕也 文藝春秋 2009年10月28日 - いもづる読書日記

近田春夫は歌謡曲をロックアレンジした「電撃的東京」、日本にヒップホップをもたらしたビブラトーンズ、ビブラストーン週刊文春の連載「考えるヒット」等々、様々な活躍をした才人。私は日本のトッド・ラングレンだと思っている。
自分のことが良く見えている、頭のいい人だと思った。「俺みたいに何でも小器用にこなせる隙間産業的な人間が少なかったから(中略)そこそこ安定した立場のタレントさんにはなれたと思うんだ。だけど、そういう状況にありながらたまに思い出したように音楽活動を行ったとしても(後略)」(168ページ)、「一番の衝撃だったのはセックス・ピストルズ。(中略)『よし、髪を切ろう』と決めた。」(120ページ)、「この当時の俺は、ロックという表現形態の行く末について悲観的な考えを抱いていた。(中略)非アカデミックなものがアカデミックなものに勝つというその瞬間こそ『ロックンロール』の醍醐味である。俺は昔からそう定義してきた。パンクやヒップホップに形を変えながら、その精神はずっと受け継がれていったと思うんだ。」(189ページ)
非音楽的な観点からは内田裕也との関係が興味深いんだろう。まあ、でも全然過大評価というか思い違いだと思うよ。

電子立国は、なぜ凋落したか 西村吉雄著 2014/7/10 日経BP社

電子立国は、なぜ凋落したか | 本の要約サイト flier(フライヤー)

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イノベーションはなぜ途絶えたか: 科学立国日本の危機 (ちくま新書1222) 山口栄一 筑摩書房 2016/12/06 - いもづる読書日記

本書のメッセージは明確で、日本の半導体産業が凋落した原因を、設計と製造を分業できなかったことにもとめる。世界は半導体にしろ電化製品にしろ設計のみを行い、製造は専門会社(ファウンドリ)に任せる「ファブレス」が主流。日本の製造業は「垂直統合」にこだわり、設計と製造の分業を行うことができなかった。鴻海のような、製造技術に特化したファウンドリになることもできなかった。
「メーカーが自社工場をEMSに売却した場合を考えよう。メーカーが自社工場で製造していた製品を、同じ工場でEMSは製造し、メーカーに納品する。(中略)工場を売却したメーカーの資産は減少する。少ない資産で同じ利益を上げられたことになる。資産効率が上がったわけだ。株主は歓迎するだろう。(中略)バブル経済崩壊以前の日本企業の経営にはこうした資産圧縮の動機はなかった。(中略)日本企業は設備投資の資金を銀行からの借り入れに頼っていたからである。(中略)借入金による資金調達を支えたのは、メインバンク制である。」(164ページ)
かつて日本のDRAMが高く評価されたのは良品率が高かったからだそうだ。これは日本の品質管理体制に依るものだ。日本人の得意な重箱の隅をつつくような細心さが上手く働いた。そしてこの成功体験にこだわってしまった。大局を見ることができない、軌道修正が効かない日本人の特性は良く自覚するべきだ。

恋する文化人類学者 鈴木裕之著 世界思想社 2015/01/20

恋する文化人類学者 - 世界思想社

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グリオの音楽と文化 - 株式会社 勁草書房

コート・ジヴォワールをフィールドとする文化人類学者が、自らの結婚を描いた本。しかもお相手はダンサー・歌手として活躍されていた方。グリオの家系で、モリ・カンテとは親戚筋、父上はサリフ・ケイタのいたバンド「アンバサドゥール」でベースを弾いていたというから本物だ。自らの体験を語りながら、文化人類学の理論も学べる素晴らしい本。「注」も充実していて、今後の読書に役立ちそうだ。
楽しい本なのだが次のような苦い言葉も率直に表される。「人類学者は悩んでいる。苦悩している。なにについて。文化人類学の存在意義について。(中略)帝国主義植民地主義の最盛期に生まれた文化人類学。この学問は、支配する欧米諸国の白人が支配されるアジア・アフリカ諸国の諸民族やアメリカ先住民の生態を把握しようとする過程で誕生したといってよかろう。まずはこの『不純』な動機がわれわれを苦しめる。」(215ページ)「だが、じつはここからが文化人類学の本当の醍醐味なのである。(中略)あなたがオールド・スクールの文化人類学をしっかりと理解し、その問題点を把握できるようになったなら、次なる扉を開き、まさに今現在われわれの生きている現実を語ってくれるニュー・スクール文化人類学の世界を楽しむことができるだろう。」(217ページ)

 

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー ブレイディみかこ著 新潮社 2019年6月21日

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 特設サイト | 新潮社

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女たちのテロル ブレイディみかこ著 岩波書店 2019/05/30 - いもづる読書日記

ベストセラーとなった著者の出世作。例えば「女たちのテロル」に比べると薄口というか入門編という感は免れないが、それがポピュラリティを得た理由だろう。色々語りつくされているので、あまり言は重ねないが、とても面白かった。
「女子生徒に案内されて廊下を歩いていくと、左右の壁に、見おぼえのある、というかひどく懐かしいサイズの正方形の物体がずらりと並んでいるのが見えてきた。ザ・シャドウズ、ジ・アニマルズ、ザ・フー。名だたるブリティッシュ・ロックの名盤アルバムのジャケットが両側の壁にずらりと貼られていたのだ。何よりこの並べ方に信頼がおけるのはロニー・ドネガンから始まっている点だ。」映画のシーンみたいだな。ロニー・ドネガンが誰か説明しないのも格好いい。

 

知性は死なない 平成の鬱をこえて 與那覇潤 文藝春秋 2018年04月06日

『知性は死なない 平成の鬱をこえて』與那覇潤 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS

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心を病んだらいけないの?―うつ病社会の処方箋― 斎藤環 、與那覇潤 新潮社 2020/05/27 - いもづる読書日記

メンター・チェーン ノーベル賞科学者の師弟の絆 ロバート・カニーゲル 工作舎 2020.12 - いもづる読書日記

うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間 先崎学 文藝春秋 2018/07/13 - いもづる読書日記

 那覇潤三冊目。著者の躁うつ病体験と現代の「非知性主義」が絡め語られる。発病にいたった「うらみ事」が重ねられ重苦しい気持ちになる。
著者はまじめな人なんだろうな。大学の存在意義についても縷々述べられるが、堂々巡りの感が否定できない。むしろ「先生はえらい」(ちくまプリマー新書)と言い切ってしまう内田樹に戦略性を感じる。理系には実験技術とか論理とか学習機会は多く、修行体験が「メンター・チェーン」に描かれた師弟関係を生む。理系は世界につながるが、文系はどうなのか?