アンソロジー 餃子 菊谷匡祐, 黒鉄ヒロシ, 小泉武夫, 小菅桂子, 小林カツ代, 今柊二, 鷺沢萠, 椎名誠, 東海林さだお, 南條竹則, 難波淳, 野中柊, 浜井幸子, 林家正蔵, パラダイス山元, 平松洋子, 藤原正彦, 古川緑波, 南伸坊, 村瀬秀信, 室井佑月, 山口文憲, 山本一力, 四方田犬彦, 渡辺祥子, 渡辺満里奈 パルコ 2016/04/28

アンソロジー 餃子 - はてなキーワード

from

中国現代文学珠玉選 小説〈3〉女性作家選集 丸山昇, 白水紀子 二玄社 - 単行本 - 2001/03/01 - いもづる読書日記

タモリと戦後ニッポン (講談社現代新書) - はてなキーワード

 

 北京で投宿していたのがオリンピック公園にほど近いホテルで、市中からは距離があった。仕事はアゴアシ付きだったので、宿から出ないですますことも可能だった。漢字が読めるということは、こと私にとってはアドバンテージではなく、例えば「東直門」に行くにも字面で認識したものだから、トンジーメンという読みを覚える努力を怠り、切符も買えないという体たらくだった。
 史家胡同博物館のあと、王府井に出てみた。近代的なデパートの中の餃子店に入り、身振り手振りで注文した羊肉と香菜の水餃子がいたく美味しく、私は初めて北京に来たことを実感した。今や日本の食文化に定着した餃子も、かつては大陸での記憶を呼び起こすものだった。「二〇世紀が間もなく終わる。餃を前にして大陸への想いを甦えらせる者たちは少なくなった。(中略)一九世紀末の日清戦役からほぼ半世紀、旧満州遼寧省を中心に侵略と入植を重ねていった日本列島の人間たちが、彼我に多くの生命を奪い失ない、生活と財産を破壊し破壊されて得たものとして、今日、巷に溢れるギョーザ以外眼にふれる存在はない。」(173ページ、甲斐大策)戦前の日本人の一部に、広大な大陸への憧れがあったのは間違いない。尊敬するにせよ軽んじるにせよ、彼らは中国人とともに一時を過ごした。勇躍島国を飛び出した者たちの蹉跌と癒しの象徴として餃子が残った。本書にも登場するタモリの父君が大陸還りであったことが、「タモリと戦後ニッポン」のモチーフの一つだったが、餃子にからみついたこの奇妙なノスタルジアは、現代中国を体験することによってアップデートすることが可能なのではないだろうか。それとも、彼らの憧れた「大陸」はもう存在しないのか。
 というわけで、パクチーを買いもとめて、北京の味の再現を試みているのだが、未だ満足な結果は得られていない。