あちらにいる鬼 朝日新聞出版 2019.2 井上荒野著

あちらにいる鬼 - 井上 荒野 - Google ブックス

なんでこの本を読もうと思ったのかな?井上光晴瀬戸内晴美の不倫関係の話を、井上の妻と瀬戸内のモノローグの形で描いた作品。作者は井上の長女である井上荒野。女性はまた違う感想を持つかもしれないが、井上光晴の魅力は伝わってこない。井上光晴は全く読んだことが無い。この作品にも登場する映画「全身小説家」の主人公だったことを知っているだけだ。家族には自明のことかもしれないが、純文学が死に絶えた時代にこの物語は通用しない。
なんとなくパターナリズムということを考えた。父親を対象化することは家族を対象化することだと。子供は父親を否定することから始めなくてはならない。著者は「ひどい感じ 父・井上光晴」という本もあるようなので、そちらを読んでみることも必要か?
本作ははからずも、瀬戸内晴美/寂聴の怪物性を描くことには成功しているかもしれない。「白木はようやく泣き止んで、バツが悪そうにブランデーを啜った。わたしが何も言わないせいもあるだろう。何を言えばいいだろう。わたしも、自分の娘のことを話してみようか。娘がわたしについてもう何も知りたくないと言っていること。あるいはあの日の火事のこと。火をつけたのは自分であるような気がしたこと。いや、そうではない。正確に言うなら、燃やしてしまいたい、とわたしは思っていたのではなかったかー何を?」(77ページ)小野洋子の"Don't worry Kyoko"を思い出す。