エーゲ 永遠回帰の海 立花 隆 著 , 須田 慎太郎 写真 筑摩書房 2005/11/1

筑摩書房 エーゲ 永遠回帰の海 / 立花 隆 著, 須田 慎太郎 著

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知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと 文春新書 立花隆 2020年01月20日 - いもづる読書日記

書き換えられた聖書 バート・D・アーマン 著 ちくま学芸文庫 2019/06/10 - いもづる読書日記

「知の旅は終わらない」でも触れられていたが、立花と須田が1982年にギリシア、トルコなど地中海世界をともに回り、撮影された膨大な写真と文章でまとめたグラマラスな本。本書の基本的なコンセプトは、地中海世界の土着宗教やギリシア神話キリスト教の成立に関りがある、流れ込んでいることでありそうだ。「もしパウロがトロアスで見た夢に従ってフィリピに渡らなければ、果たしてキリスト教がいま見るような世界で最も栄える世界宗教になっていたかどうかわからない。(中略)ユダヤ教があくまでユダヤ人の間の民族宗教にとどまったのに対し、キリスト教はヨーロッパに渡り、ギリシア文化と結合したことによって世界宗教への道を開いた」(164ページ)、「このディオニソスの神話がキリスト教神話につながっていく。ポイントは、神の子であるが故に、一種の不死性を獲得し、それが復活能力になったというところにある。キリスト教の骨格にある神話は、イエスは神の子であるが故に、神と人の間をつなぐ偉大な仲介者(Mediator)となったというものだ。」(176ページ)、「その教会堂(引用者注:聖母マリアがなくなったという伝説のある教会)は、ちょうどエフェソスを見おろすかっこうの小さい山の上にある。その同じ地が古代においては、アルテミス礼拝の地であったという。同じ土地が、アルテミス信仰の聖地からマリア信仰の聖地に変わったわけである。」(218ページ)。

「知の旅は終わらない」では納得がいかなかったが、丁寧に示されると納得されないでもない。ただ、キリスト教世界宗教になったのは、公会議を繰り返されるなかで鍛えられていった教義の構造にあるという考えは変わらない。突飛だけれども、耐性菌の成立メカニズムを思い出さないでもない。結核菌のペニシリン耐性はペニシリンの圧力によって後天的にもたらされた考えがちだが、耐性菌はペニシリンが用いられる前から存在したいう説がある。あらかじめ、菌のセットは供給されいて、そのうちペニシリンの淘汰圧に抗した菌種が生き残ったという考え方だ。これなら、遺伝形質が後世に伝わるメカニズムを無理なく説明できる。キリスト教結核菌に例えるのは不敬だが、ヨーロッパに伝播した一神教は一つではなかった、そしてキリスト教は生き残る強さがあったのだと考えると、そのメカニズムは何なのか。