満洲暴走 隠された構造 大豆・満鉄・総力戦 安冨歩 角川新書 2015年06月17日

満洲暴走 隠された構造 大豆・満鉄・総力戦 安冨 歩:一般書 | KADOKAWA

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正月の坂本龍一の番組に出演された安冨歩さん、なかなか読むことができなかった。本書は満州関東軍の暴走を題材に、回りだした流れを止めることが困難な日本人の特質を描き出した快著。暴走のメカニズムを著者は立場主義と呼ぶ。「石原莞爾は総力戦ができる大帝国を作るために、満州事変を企画・実行しました。しかし、それで何が起きたかというと、立場主義者たちの暴走が引き起こされたのです。自分の立場を守ったり、他人の立場を脅かさないために、いろんな政策が決定されていく。この連鎖が始まりました。筋道が通っていなくても、効果がないどころか逆効果でも、だれかの立場を守るためなら、それらが延々と実行されます。」(182ページ)「そしてそれは、70年後の今もまったく同じなのです。福島原発事故がその最たる例でしょう。(中略)事故が起きれば大変なことになることはわかりきっているのですから、原発など諦める、事故が起きたときは納得の行く補償などがされるよう前もって決めておく、この二択しかありませんでした。しかし『現実主義者』たちはどちらをも『非現実的』として『事故は起きないはず』というファンタジーに逃げ込みました。『立場上』原発を諦めることなどできないし、事故は起きないという、『立場上』、補償や避難の計画は想定外というわけです。」(201ページ)そして、勇気を持って原則論に忠実になれ、流れにさおを挿せ、不可能だったらサボれと唱えます。
満州の様々な非道と、現代日本にも跋扈する立場主義を気が滅入るほど描きながら、巻末近く著者は高碕達之助を配し、救済を図る。「高碕はそこから日本人会長として帰還交渉に奔走、撤退するソ連軍と進出して中国共産党軍、それに国民政府を交えて三つ巴四つ巴の交渉を開始しました。敗戦国の残留国民の代表である彼には、何の力もありません。彼らにあったのは、満州国の生産設備や経済機構に関する知識でした。それを手がかりに、困難な交渉を粘り強く繰り返し、それぞれの軍隊や政府から、さまざまの援助を引き出したのです。」(214ページ)
丸谷才一が、本書の原型となった「『満州』の成立~森林の消尽と近代空間の形成」を読んで「この本について司馬(遼太郎)さんとかたりあひたかつたなあ」書かれたそうだ。(251ページ)