ニッポンの音楽批評150年100冊 栗原裕一郎 大谷能生 2021.11.19 リットーミュージック

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「出版現実論」藤脇 邦夫 著 太田出版 1997 - いもづる読書日記

日本における西洋音楽の受容史を、音楽に関する言説を渉猟してあぶりだそうとした本。1876年を起点に概ね30年づつ5章に渉って論じられるが、最後は2025年と3年先の未来になっているのがご愛敬。各章にはブックガイドを付して補強を図り、さらに巻末には音楽雑誌の創刊終刊をたどった表(労作!)を配している。
中村とうようのニューミュージック・マガジン渋谷陽一ロッキングオンに結構な紙幅が費やされている。「『ロックは思想である』というのが、渋谷にも岩谷(初期ロッキングオンのライター;引用者注)にも共通した理念であり、その理念において『ニューミュージック・マガジン』に対抗しようとしていた。中村とうようの思想はつまるところ反体制、反資本主義であるから、商品になってしまったロックは否定されてそれでお仕舞いである。『ロッキングオン』は中村に対するカウンターとして自己の思想を形作った行きがかり上もあってだろう、ロックは売れてなんもであるという論陣を張ったが、(後略)」(262ページ)「だが、渋谷の批評からは言うほどの『文学性』は看取できない。音楽批評を文学批評に近づけるべく実践してみせたのは、むしろ岩谷や橘川だっただろう。特に岩谷の、抽象的な思索から論理を飛躍させ心情に訴えかける語り口は、小林秀雄の得意とした書きぶりによく似ていた。」(263ページ)雑誌というのはライターが集うトポスという役割もあり、ミュー・マガは多くの書き手を育てた。ROは編集者こそ育てたが、読み物としての賞味期間は過ぎてしまったんじゃないかな。元ROの方々もギョーカイ人的な活躍のみが目立つような気がする。