AI 2041 人工知能が変える20年後の未来 カイフー・リー(李開復) チェン・チウファン(陳楸帆)  2022年12月08日 文藝春秋社

『AI 2041 人工知能が変える20年後の未来』カイフー・リー(李開復) チェン・チウファン(陳楸帆) 中原尚哉 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS

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AIの現況と未来像を描いた書だが、20年後の未来を描いた小説(陳楸帆)とそのテーマについての技術的な解説(李開復)で構成されている。10の章にわたり、深層学習、拡張現実、自然言語処理、医療、自動運転、量子コンピュータベーシック・インカム、一般データ保護規則、シンギュラリティといったテーマが展開される。ほぼAIに関する論点は網羅されているのではないか。このところのチャットGPTブームもあって、大分状況も変わったように感じるが、受け取り方の問題だと。自然言語処理が一般人にアピールしやすい話題だったということだと思う。「未来1」の解説部分が明快で分かりやすい。「深層学習は人間の脳に触発されたものだが、両者の働きは全く異なる。深層学習は人間よりはるかに多くのデータを必要とする。(中略)深層学習がうまく機能するためには必須の条件がある。関連性のある大量のデータ、単一の領域、最適化のための明確な目的関数の三つだ。」(53ページ)将棋や囲碁のような勝ち負けという明快な目的がある場合、AIは自分でデータを生成することさえできるわけだが、これは特殊な環境であることがわかる。
活況を呈する中華SFも味わえるお得な本でもある。小説の舞台がインド、ナイジェリア(フェラ・クティアバター!)、韓国など、エスニックでダイバース。章扉のmottoも論語和泉式部が引かれて興味深い(エクス・マキナも)。AI教育(幼児のAIコンパニオン)を描いた「金雀と銀雀」が最も印象的だった。でもこれって人間の可塑性(状況対応能力)の凄さを描いていない?
最終章の解説で李開復はこのように書く。「シンギュラリティ仮説によればコンピュータ性能の指数関数的成長により、自己決定AIが同じく指数関数的に発達し、超知性を獲得する。(中略)端的に言えば、シンギュラリティとは機械知性が人間知性を超える瞬間ということだ。(中略)やってくるのはロボコップか、ターミネーターか。2041年にあらわれるのはどちらだろうか。どちらも来ないといっておこう。(中略)質的に優れたAIを作るには、深層学習なみの新たな科学的ブレークスルーがいる。(中略)超知性を将来誕生させるにはこの規模の科学的ブレークスルーがいくつも必要になる。」(549ページ)では、100年後だったら?これは科学者というより、思想家の領分かもしれない。