うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間 先崎学 文藝春秋 2018/07/13

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 私は以前より先崎学九段のファンである。将棋の内容はわからないが彼の書いたものの愛好者で「先崎学の浮いたり沈んだり」シリーズはだいたい読んでいると思う。昨年夏、氏が休場を発表した際、不思議に思ったし心配していた。なので、本書は待ち望んでいたものだった。うつ病患者が自ら書いた闘病記はめずらしいと思う。入院にいたるまでの記述は生々しく恐ろしい。「正確にいうと、電車に乗るのが怖いのではなく、ホームに立つのが怖かったのだ。なにせ毎日何十回も電車に飛び込むイメージが頭の中を駆け巡っているのである。(中略)今でもあの吸い込まれそうな感覚は、まざまざと思い出すことができる。それは、生理的にごく自然に出た感情だった。健康な人間は生きるために最善を選ぶが、うつ病の人間は時として、死ぬために瞬間的に最善を選ぶ。」(13ページ)私も自分がうつ気味かと思っていた部分があったのだが、著者の見た地獄は私の想像をはるかに超えたものだったと思う。
 そこから徐々に快復されるのだが、考えることを職業とされる方なので、その能力(脳力?)の低下と回復が、あたかも定量的にとらえられ興味深い。投薬については睡眠導入薬のみ述べられているが、副作用云々の話もないので抗うつ剤は使われなかったのか、何かの差し障りがあって書かれなかったのか。「将棋は、弱者、マイノリティのためにあるゲームだと信じて生きてきた。国籍、性別、肉体的なことから一切公平なゲーム、それが将棋だ。(中略)うつ病になったのをまわりに隠さず、病院にも皆に来てもらったのは、こうした私の思想的バックボーンがあったからだ。そしてこの本を書く有力な動機にもなった。」(184ページ)これからも元気で頑張ってください。