「私労働小説 ザ・シット・ジョブ」ブレイディみかこ [文芸書] - KADOKAWA
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リスペクト ブレイディみかこ著 筑摩書房 2023/08 - いもづる読書日記
日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 小熊英二 講談社現代新書 2019年07月17日 - いもづる読書日記
読後感は珍しく苦い。「自伝ではない」そうだが、著者の直接的な感覚があまり調理されずに提出されているようだ。人種差別、階級差別、搾取といったワードが並ぶ。だが、労働者階級がシットジョブの担い手だという単純な話に帰結したいわけではないようだ。
「『あなたのお母さんは、天使のような人だ。』病院での母の働きぶりは素晴らしかったらしい。(中略)家で彼女が自分の職場についてどう語っているかを知っていた私は、そうした言葉を信じられない気持ちで聞いていた(中略)水色の介護士の制服を着た母親は、車椅子の脇に腰をかがめて、風に乱れた患者の前髪を顔から払っていた。あんな柔らかな笑みを浮かべた母親を長いこと見ていなかった、なんとなく胸がドキドキして、私は少し離れた場所からそれを眺めていた。」(248ページ)
階級社会ではないと言われながら、真綿で首を絞めるように分断が進む日本社会。小熊英二は「新しい合意」の形成が必要といったが、まず社会の実像を描き出し、直視するのが第一歩だと思う。