ブライアン・イーノ エリック・タム 水声社 1994/06

ブライアン・イ-ノ / タム,エリック【著】〈Tamm,Eric〉/小山 景子【訳】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

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ぼくはこんな音楽を聴いて育った 大友良英 筑摩書房 2017/09/11 - いもづる読書日記

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労働者階級の反乱 ブレイディみかこ | 光文社新書 | 光文社

アメリカの音楽学者によるブライアン・イーノの評伝。イーノはロック・アーチスト、プロデューサー、アンビエント音楽の創始者として知られる。著者のイーノへの愛情を感じる。音楽学的な楽曲分析は適度で、ロック・ジャーナリズム的にも不自然さはない好著だと思う(学者がロックを語るとお門違いなことが多いけど)。原著は1989年に発刊されているが、近年のイーノはリベラルな思想家としての相貌を強くしているようだ。次に読んでいる「労働者階級の反乱」にもイーノが登場している。
イーノの2面性は衆目の一致するところだ。「1974年、彼の経歴の初期において、彼は自分が非常におもしろいと思う二つの種類のものを、統合することに興味を持った。すなわち、前衛音楽の『過度に知的で反肉体的な』性質と、ロックの『過度に肉体的で反知的な』性質を、融合しようとした。」(55ページ)著者はこの2面性が偶然もたらされた可能性を指摘する。「一方駆け出しのイーノが『ノー・プッシーフッティング』と、熱っぽい『ヒア・カム・ザ・ウォーム・ジェッツ』を同じ年にリリースしたことは、イーノのキャリアとしてはある意味で危険な動き方ではあったが、結局この動きが後にたどることになる折衷主義的な方法へと彼を向かわせたのであった。イーノは以下のように説明している。『これら二つのアルバムの間の違いは、私のイメージについてある種の混乱をもたらし、私のマネージャーは悲観していた。けれどもこれは私のできうる最良の動き方であったことが後になって判明した。-そしてこの動きは、全くの偶然によるものだった。この動きによって私は、自分が首尾一貫していなくても良いのだということになった。』」
しかし、私はイーノの知性は確信をもって現在の道を選択したのだと考える。イーノはアンビエント音楽を創始しただけではなく、それをアンビエントと呼ぶことでミニマリズムなど先行する現代音楽に消費機会をもたらし、意欲的なロック・ミュージシャンに新たな表現の可能性を提示したのだ。これはロックという商業音楽でありながら、最も切実に必要とされる芸術形態と深く関わったからこそ生み出されたコンセプトだったと言えるのはないだろうか。イーノは賢人であるが、その宙を舞っているような存在感が、世間から超越した「思想」を実現している。なぜそれが可能なのかはわからないが。