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小室直樹は在野の学者として有名だった。博覧強記で、著作多数。自主ゼミを開講し、橋爪大三郎、宮台真司などが通ったらしい。2010年に亡くなっている。本書はキリスト教、ユダヤ教、イスラム教、仏教、儒教についてその本質を語った本。原書は2000年刊であり、オウム事件をきっかけに発刊されたようだ。
各宗教をかなり的確に言い表しているように思う。「キリスト教の要諦は、『行為ではなく、すべて信仰』ということにつきる。(中略)いかなる修行も善行も少しも必要ではない。(中略)このキリスト教の蘊奥を、パウロはキリスト昇天の直後にすでに明言しているのである。」(82ページ)「仏教は釈迦の教えではなく、絶対的なものは法(ダルマ)すなわち道徳法則のようなものだけであり、これを悟った者が仏となる。故に、仏が出現してもしなくても、法そのものは厳然としてあると考える。法がなにより第一で、仏は次に来る、いわば『法前仏後』の構造をとっており」(201ページ)
繰り返し日本人の宗教音痴を指摘したのち、最終章では「宗教無法地帯」となった日本の現状を批判する。「いま、日本のカルト宗教、教団は、その信者たちのアノミー救済のために機能している。日本に現在吹き荒れているアノミー禍は、日本人の絶対信仰である天皇信仰が突き崩されたため、ということが遠因にある。(中略)アノミー(anomie)とは何ぞや。これはフランスの社会学者エミール・デュルケム(1858-1917)の用語であり、普通『無規範』、『無秩序』などど訳されるが、それはむしろアノミーが引き起こす結果である。そこでこの言葉を一言で定義すれば、『無連帯』というのがその本質である。(中略)天皇教が敗戦によって壊されて、それによってアノミーが生じた。その空白を埋めるべく現れたいまのカルト教団やその前にはマルキシズム、その中間に存在する家庭内暴力や校内暴力というのは、その意味で全く同型(アイソモーフィック)といえる。」(385ページ)明治期にそれまでの宗教伝統を破壊して、ある程度は確立、浸透した天皇教、国家神道が、戦後一方的に取り除かれたために生じた精神的空白ということだと思うが、天皇教自体が教義、世界観、蓋然性を欠いていたのは事実であり、人工的に疑似宗教を外挿した無理が生んだ結果ではなかろうか。