萩尾望都がいる 長山靖生 光文社新書 2022年7月13日

萩尾望都がいる 長山靖生 | 光文社新書 | 光文社

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一度きりの大泉の話 :萩尾 望都|河出書房新社

少年の名はジルベール | 書籍 | 小学館

高橋源一郎橋本治についてこんな風に語っている。「この頃に橋本さんの『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』(79)が出たんです。ぼくはこの評論集に、ほんとうに大きな影響を受けていると思います。(中略)ぼくは、もともと評論や批評をやりたかった、江藤淳のような批評家になりたかったんです。でも、やっぱり小説で新しいことをやろうと思って転向したんですね。だから、村上春樹には正面から衝撃を受けたけど、橋本治を読んだ時には、批評で新しいことができている! と、後ろからやられた気がしました。(中略)自分がいったん捨てた批評の言葉をかくも鮮やかに、しかも口語調で橋本さんはやった。これは驚くと同時に、勇気をもらいました。」(追悼総特集 橋本治: 橋本治とは何だったのか? (文藝別冊) )「花咲く乙女たち~」は少女マンガの、新しい表現メディアとしての可能性をハイライトした記念碑的な作品である。取り上げられている作家は、倉多江美萩尾望都、大矢ちき、猫十字社山岸涼子江口寿史鴨川つばめ陸奥A子、土田よしこ吾妻ひでお大島弓子であった。時間の経過を感じる部分もあるが、橋本治の確かな批評眼を感じる。
という文章を「一度きりの~」と「少年の名は~」を読んだときに書きかけたのだけど、ちょっと痛ましくて本題に入れなかった。本書は萩尾望都表現者としての画期性について語り尽くそうと試みた労作だ。橋本治への言及も徹底している。「橋本治は<萩尾望都はセックスというものを締め出して”少年達の愛の物語”というのをやったんだけど(中略)この『トーマの心臓』に限って萩尾望都はくさい。>とも書いています。しかし、それは本当でしょうか。(中略)愛することから性欲を排除したい気持ちが少年の中に内在しないと、誰が決めつけられるのか」(116ページ)。まじめな議論なのですが、橋本治桃尻娘シリーズで木川田源一君と磯村薫君が初めて結ばれるシーンを思い出しちゃいました。「お前、でっかいなあ。」
著者は私と同世代、作家たちより10歳程度年少で、その目配りには納得する部分が多い。「だからある男たちは『ポー』や『トーマ』に苛立ち、別のタイプの男たちは熱烈に支持しました。男はみな、かつて少年だったか、今なお少年なので、作中の少年に憧れて同化を夢見るか、同化できぬ自分の『汚れちまった悲しみ』(by中原中也)に傷付くかしたのです」(92ページ)。24年組に関して言えば、やはり竹宮サイドの歴史選別が働いていると云えるだろう。著者は「『ガラカメ』抜きに少女漫画史を語るな!『はみだしっ子』も忘れるな!」(161ページ)と書いている。あたらめて思ったのは萩尾望都という作家の巨大さで、私は全作品の半分も読んでいないだろうということがわかった。あとがきには「まだ読んでいない萩尾作品がある人は幸いです。」とある。著者には「ありがとうございます」といいたい。