拉致と日本人 蓮池透, 辛淑玉 岩波書店 2017/06/28

拉致と日本人 - はてなキーワード

 

 それまでの日本の外交方針はいわゆる「土下座外交」で、北朝鮮に対しても言いたいことも言えない状態だったが、急展開したのが2002年の日朝首脳会談だった。それ以来、中国、韓国、北朝鮮への対抗姿勢と、不安感を煽ることによる右傾化誘導が外交、内政の基調音になっている。一度落ち着いていろいろなことを自分の頭で考えてみる必要があるのではなかろうか。本書は家族会の政治利用に疑問を持ち家族会を離脱した蓮池透氏と最近、過熱化するヘイトスピーチに危機感を感じドイツへ移住した辛淑玉氏の対談。辛淑玉の目線というコラムがはさまる。
 「植民地支配下で行った残虐行為の仕返しがくるという恐怖心、『こっちが弱くなったらやられる』という恐怖心が常にこの国の根底には流れている。その恐怖心にかられて関東大震災時に朝鮮人を殺戮したように、戦後も、やはり朝鮮人からの復讐を怖れていきたたのだ。」(51ページ)。
 「辛 マスコミが味方になったときはありましたか? 蓮池 一度ありました。二〇〇二年の九月一七日、日本政府が、『拉致被害者五人生存、八人死亡』という北朝鮮側の発表を確認することもなく鵜呑みにしたときです。私たちは記者会見を開いて、『発表には信憑性がない』『私たちは未確認情報を(日本政府から)断定的に伝えられた』と強調したんです。そうしたらマスコミは『死亡した拉致被害者』という表現から『北朝鮮により死亡とされた拉致被害者』に改めてくれた。」(83ページ)
 「北朝鮮への恐怖心を煽ることには、政権にとっても軍需産業にとっても、計り知れないメリットがある。北朝鮮と交渉することも、仲良くすることも、全て『反日』と決めつけて、いくらでも糾弾できるからだ。マスコミにとって『家族会』『救う会』は、新たなタブーとなった。そして、多くのメディアが沈黙した。『救う会』は、拉致問題が解決しないでいる限り、存在理由を担保していられる。」(118ページ)

つげ義春: 夢と旅の世界 (とんぼの本) つげ義春, 戌井昭人, 東村アキコ, 山下裕二 新潮社 2014/09/19

この間読んだ本。湯宿温泉に行くので参考書

つげ義春: 夢と旅の世界 (とんぼの本) - はてなキーワード

貧困旅行記 (新潮文庫) - はてなキーワード

必殺するめ固め―つげ義春漫画集 (1981年) - はてなキーワード

つげ義春を読む - はてなキーワード

つげ義春 幻想紀行 - はてなキーワード

 「つげ義春: 夢と旅の世界」は非常に解りやすく有用だった。ネジ式、紅い花、ゲンセンカン主人も採録、インタビューや年譜も興味深かった。湯宿温泉は街道筋の温泉街でこじんまりしていたが、宿屋はごく普通だった。

ぼくはこんな音楽を聴いて育った 大友良英 筑摩書房 2017/09/11

ぼくはこんな音楽を聴いて育った (単行本) - はてなキーワード

 

 1959年生、福島育ちの著者が自分史と重ねて自分の聞いてきた音楽を語る良著。2歳年下で隣県で育った私にはよく解る部分が多かった。ちょっと面白かったのは著者がパンク・ロックの洗礼をうけていない点だ。アナーキー・イン・ザ・UKが1976年だけど日本での受容は随分遅れたように思う。この辺の2歳の違いは大きいのかな?個人的な記憶では1976年は音楽的な停滞期で、ツェッペリンもパープルもパッとしなかった。パンクが過去のロックを否定するのは理解できた。この後著者はパンキッシュな活動を展開していくのでいわずもがなけど。その辺が楽しみな「東京編」はWEBちくま(http://www.webchikuma.jp/articles/-/1270)連載中。

誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性 (光文社新書) 田中潤, 松本健太郎 光文社 2018/02/15

誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性 (光文社新書) - はてなキーワード

FROM 人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?―――最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質 山本一成 ダイヤモンド社 2017/05/11 - いもづる読書日記

TO AI vs. 教科書が読めない子どもたち - はてなキーワード

 

 本書を読む前に製作裏話(https://www.mm-lab.jp/interview/misunderstanding_artificial_intelligence/)を読んで、勝手にシンギュラリティ否定派の方の本だと思っていたので、そこまでアンチじゃないんだなという感想。人工知能開発の現状と短期的な未来予想が有用な本。「人工知能はどのように『名人』を超えたのか」と併せてだんだんとわかってきた。本書の前半はAIを働かせるには目的の設定が重要で、学習のために十分な量のデータが必要だということが述べられる。現在急速に進むAIの進歩に日本は完全に乗り遅れている。後半は「人工知能はこの先の社会をどう変えていくか?」、「社会に浸透する人工知能に私たちはどのように対応すべきか?」が述べられる。AIに仕事を奪われた私たちは一方で貴重な消費者である。「そうなると、労働の対価としてお金をもらうという仕組み自体を壊すしかないと僕は思います。」(215ページ)ベーシックインカムの導入が望ましいと。
 現状ではAIが人間より優れているか否かの判断は人間が行っている。AIに「大局観」があるような気がしているのは人間である。しかし、近い将来AIが人間の知性をはるかに凌駕すれば、AIの決定(その過程はブラックボックス化されている)を人間が判断することは叶わなくなる。どうもこんなディストピア小説のような未来像しか見えてこないのだが。

 

 

昭和天皇とワシントンを結んだ男―「パケナム日記」が語る日本占領 青木冨貴子 新潮社 2011/05

昭和天皇とワシントンを結んだ男―「パケナム日記」が語る日本占領 - はてなキーワード

占領史追跡: ニューズウィーク東京支局長パケナム記者の諜報日記 (新潮文庫) - はてなキーワード

 

TO GHQと戦った女 沢田美喜 (新潮文庫) - はてなキーワード

敗北を抱きしめて〈上〉―第二次大戦後の日本人 - はてなキーワード

敗北を抱きしめて〈下〉― 第二次大戦後の日本人 - はてなキーワード

 

 コンプトン・パケナムは1893年日本生のイギリス人で、アメリカ占領期の日本でニューズウィーク誌の記者として活躍した。パケナムはマッカーサー公職追放財閥解体政策を「日本で最も活動的で能率がよく、経験豊かで教養もあり、国際感覚をあわせもつ層、まさに最もアメリカに協力的な層が切りすてられることになった」(37ページ)と批判し、怒りを買った。アメリカに一時帰国した際、日本への再入国をゆるされないほどであった。パケナムはトルーマン大統領の助力もありふたたび日本で記者生活を続けることになったが、このことよりアメリカ政府のエージェントでもあったのではないかと想像されている。
 パケナムは日本の再軍備に消極的だった吉田茂首相を批判し、鳩山一郎岸信介といった当時のニューリーダーとの人脈を築いていった。1951年、後に米国務長官となるフォスター・ダレスが来日した際、鳩山一郎との極秘会談をセッティングしたりした。こうした活動の中で友人であった宮内府式部官長松平康昌を通じて、昭和天皇からダレスへのメッセージがもたらされた。それは「有能で先見の明がある善意の人々の多くが自由の身になれば、世のために貢献することができるでしょう」(143ページ)というものであった。「吉田もマッカーサーも通り越して、昭和天皇は独自外交の一歩を踏み出したのである」(140ページ)。
 著者は「岸という人間が(中略)旧軍の軍国主義的な体質を色濃く引きづった人物」、「沖縄に負担を残したまま、”密約”を結んで、国民には秘密主義で明かさず、反共の防波堤として米国と密接な関係をもつことを何より第一にしたのが岸であった」(236ページ)と述べる。この時期に制度設計された日本の防衛政策は当時の矛盾を内包したまま現在まで続いている。一方で日本の再軍備を批判する側の「アジアのスイスたれ」(138ページ)という主張にパケナムは「一億玉砕などを叫んだ戦前のスローガン同様のたわごと」と断じている。日本人が主知的であるがゆえに現実を見誤った判断をしがちであるという指摘かもしれない。現実的で、国民の最大幸福を目指した、より開かれた議論が必要だと考えるが。

  

神になりたかった男 徳田虎雄:医療革命の軌跡を追う 山岡淳一郎 平凡社 2017/11/25

神になりたかった男 徳田虎雄:医療革命の軌跡を追う - はてなキーワード

 

 ちょっとどう要約して良いかわからない。医局制度や研修医制度は大きく変わったが徳洲会の存在意義は失われていない。徳洲会という存在は徳田虎雄の個性がなければありえなかったが、徳田虎雄の影響力がおおむね無くなった現在でも、徳洲会系の病院は依然として独特の存在感を示している。アメリカ帰りとか学生運動上がりという指摘もあたっているだろう。だが、本書は徳洲会という現象の全体像を捉えているとは言えなさそうだ。残念ながら唐牛健太郎は出てきません。
 たぶん、医療業界のありかたを語らなければ徳洲会を語ることはできない。徳洲会は理想郷ではないが一つのアンチテーゼであったしこれからもそうだろう。そういう意味では本書は物足りない。

 

 

 

唐牛伝 敗者の戦後漂流 佐野眞一 小学館 2016/07/27

唐牛伝 敗者の戦後漂流 - はてなキーワード

FROM 永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」 (文春新書) 早坂隆 文藝春秋 2015/06/19 - いもづる読書日記

吉本隆明1968 鹿島茂 平凡社 2009/05/16 - いもづる読書日記

1968〈上〉若者たちの叛乱とその背景 - はてなキーワード

1968〈下〉叛乱の終焉とその遺産 - はてなキーワード

中核VS革マル(上) (講談社文庫) - はてなキーワード

中核VS革マル(下) (講談社文庫) - はてなキーワード


 まず、佐野眞一の復活を寿ぎたい。推理小説的に読ませる佐野節も健在である。唐牛健太郎は名前を知っているという程度だった。60年安保と70年安保の違いはよく聞く話だが、唐牛、島成郎、青木昌彦西部邁という登場人物達が個性的。その牧歌的な自由さが印象的だった。登場人物の多くが鬼籍に入っておられることと学生運動が関係あるのかないのか。
 吉行和子桐島洋子のくだりが面白かったが、女性は元気とかいうのは違う気がする。著者の嗜好もあるんだろう。「安保闘争の時代が終わると、大きな本のページをめくるように新しい女の時代が始まっていた。だが、それに気がつく者はほとんどいなかった」(274ページ)。
 たまたま「永田鉄山」と相次いで読んだ。我々は国防を他人任せにすることで経済成長を謳歌できた。一方で自己判断力を奪われたことで、表出する矛盾を見ないで済ます不健全さが習い性となった。現状を無視して暴走するのが正しいはずがない。戦略的に考え粘り強く行動しなければ現状を変えることはできない。