かくしてモスクワの夜はつくられ、ジャズはトルコにもたらされた 二つの帝国を渡り歩いた黒人興行師フレデリックの生涯 白水社 ウラジーミル・アレクサンドロフ 著 2019/09/26

かくしてモスクワの夜はつくられ、ジャズはトルコにもたらされた - 白水社

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青土社 ||歴史/ドキュメント:黒いヴィーナス ジョセフィン・ベイカー


ブルースの生まれた地ミシシッピ、帝政期のモスクワ、コンスタンティノープルと神話的な土地を経巡った黒人、フレデリック・トーマスの一代記。沼野充義の解説によると、著者はロシア系アメリカ人の研究者だったが、伝記作家に転身したとのこと。よく史料が残っているものだと思う。丁寧な仕事。
フレデリックはチャーリー・パットンと同時代、同地域に育ったのだから、ブルースフィーリングを身に着けていた可能性はある。飲んだくれのブルースピープルとは対極的なキャラクターではあっただろうけど。コンスタンティノープルにジャズをもたらしたとはいえ、さほど本格的なものではなかったらしい。むしろ、ツィンバロンなどのジプシー音楽はきっと豊かだったろうと思う。「物理的にも文化的にも相当の距離を移動してきたにも関わらず、ベラが驚くほど自分に合っていることにフレデリックは気づいた。(中略)コンスタンティノープルとモスクワにはいくつか共通点があることにもすぐに気づいた。どちらも東洋と西洋、過去と現在にまたがる街だったからだ。」(207ページ)
ヨーロッパで活躍した黒人というとジョセフィン・ベーカーを思い出す。バッファロー・ビルのワイルド・ウェスト・ショーの話も出てくるが、アメリカがエキゾチックな時代があったということだろう。こうした大衆芸能史も面白そうだ。