暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ 堀川惠子 講談社 2021年07月07日

『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(堀川 惠子)|講談社BOOK倶楽部

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日本海軍はなぜ滅び、海上自衛隊はなぜ蘇ったのか 是本信義 幻冬舎 2005/10 - いもづる読書日記

丁度サミットが開催されている広島市の宇品は、旧陸軍の船舶司令部が存在したところ。ここから中国やマレー半島へ軍隊が派遣された。広島が原爆による攻撃目標になった主な理由がこの宇品港であった。陸軍と海軍の協力は限定的で、陸軍の海上輸送は陸軍が独自に行う必要があった。ガダルカナル島インパール作戦で評判の悪い旧軍の兵站であるが。マレー侵攻は一年半をかけた緻密な計画で、一気にインドシナ半島、マレーシア、シンガポールインドネシアを落として行った。ただ、結果オーライの博打の部分も大きかったようで、「圧倒的な船腹不足を証明する科学的データは排除され、脚色され、捻じ曲げられた。あらゆる疑問は保身のための沈黙の中で『ナントカナル』と封じられた。」(220ページ)緒戦の勝利を継続性のある国家経営に結実させる知性が足りなかった。持久戦に弱い、官僚的で臨機応変の対応が苦手という日本の特徴は、むしろ不可知の未来を見ようとする努力の不足によるものかもしれないと思った。
船舶司令部は原爆投下後の一週間、災害復興に獅子奮迅の活躍をした。しかし、解散時には機密書類の焼却を行なっている。これも日本人の悪弊である。万世一系どころか帝国は77年しか保たなかったのだ。後世の批判を受けることが為政者の名誉だと思わなければならない。
著者は軍事史家マーチン・ファン・クレフェルトを引いてこのようにいう。「戦場で命を失うかもしれないという抑圧状態に置かれた集団はより団結を強め、『人々は自分自身であることをやめる一方で、同時により大きく力強い何かの一部になる。自分自身がより大きく力強い何かの一部であると感じることは、そう、まさに喜びをもたらす。』」(246ページ)軍隊こそホモソーシャルの典型的な集団だ。ホモソーシャルの基盤には不可避的に抑圧が存在する。そういう意味では戦後体制も戦前体質を引きづっているし、新自由主義時代に入って、抑圧は強まっている。