吉本隆明1968 鹿島茂 平凡社 2009/05/16

吉本隆明1968 (平凡社新書 459) - はてなキーワード

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永遠の吉本隆明[増補版] 橋爪大三郎著 洋泉社新書Y 2012年 - いもづる読書日記

吉本隆明という「共同幻想」 呉智英著 筑摩書房 2012年 - いもづる読書日記

 

ここまでの吉本本の中で最も得る所が大きかった。皇国少年だった吉本隆明が敗戦によって裏切られた思いから転向論に向かって行ったことはよく知られる。吉本は、転向しなかった共産主義者こそ「現実社会というものを捨象した純粋無国籍の『無日本人』」であり、「非転向のほうこそ本質的な転向」と徹底する(82ページ)。その底流にあるものとして、「芥川龍之介の死」に描かれた社会とインテリの関係へと展開し(第3章吉本にとってリアルだった芥川の死)、そこから吉本生涯のスローガン「大衆の原像」論へと至る過程が解りやすく示される。ここでいう大衆とは「自分たちが生活する範囲以外のことには徹底的に無関心である存在」(347ページ)という抽象的なイメージということがよくわかった。吉本は紋切型の思考を受け入れず全てを自前の思考と用語法で再構築してきたから、多面的で粘り腰で強い、いや強かったと言えるかもしれない。

 

対話 起源論 岸田秀 新書館  1998/07/03

対話 起源論 - はてなキーワード

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日本史を精神分析する―自分を知るための史的唯幻論 岸田秀, 柳澤健 亜紀書房 2016/12/24 - いもづる読書日記

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倭国の時代 (ちくま文庫) - はてなキーワード

日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫) - はてなキーワード

官僚病の起源 - はてなキーワード

官僚病から日本を救うために―岸田秀談話集 - はてなキーワード

対話の相手とテーマは次の通り、山極寿一(父の起源)、岡田英弘(歴史の起源)、網野善彦(国家の起源)、今村仁司(近代の起源)、三浦雅士(幻想の起源)。岡田英弘に期待したがスウィングしすぎたようだ。網野善彦ポレミカルに議論を誘発する力が圧倒的だった。
岸田「かつて百済が日本のものだったのではなくて、半島で新羅に滅ぼされた百済が、列島で日本になったのではないか、ということが考えられる。日本の起源は百済だった。(中略) そこでできたのが、日本は天から降りてきた神様がつくった国だという天孫降臨の神話です。起源の隠蔽ですね。(中略)皇国史観がなぜ必要だったのかの心理的背景を引っ剥がしてみればそのように考えられるということなんです。」(85ページ)
岸田「もちろん、国家は弱体化した方がいいに決まっています。有害な存在ですから」
網野「国家の強くない時代もあったわけです。中世ですと、国家はそれほど強力でないから『はずれた』連中による組織ができているわけです。(中略)商業・通商の分野は本質的に国家を越えたものですね。その意味で資本主義は確かに国家を越えるものなんです。」(151ページ)

新しい世界史へ――地球市民のための構想 (岩波新書) 羽田正 岩波書店 2011/11/19

新しい世界史へ――地球市民のための構想 (岩波新書) - はてなキーワード

 

本書の著者はヨーロッパ中心の歴史観に中国史イスラーム史を接木した「日本の世界史」が気に入らない。著者はイラン史、イスラーム史の専門家に飽き足らなくなり、では大風呂敷を広げようかとなったらしい。その意気や良しである。そういえば私の高校の世界史の先生は史観が大事だと言っていた。「様々な史観があったが、現在(40年前)の主流は経済史観だ」と。マルクス派でも非マルクス派でも経済を契機に考えることで客観性が得られるという意味のことを言っていたと思う。
網野善彦は多くの業績を残し、「日本史の再発見」に大きな役割を果たした。彼の著作には常に多くの独自の視点が盛り込まれ、そこに網野史観とも呼べる筋が通っていたように思う。もちろん、史観が先にあったわけではなかろう。史料の渉猟と不断の思考から生み出されたものであろう。是非羽田史観が盛り込まれた歴史書が読みたい。

文学と非文学の倫理 吉本隆明;江藤淳 中央公論新社 2011/10/22

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吉本隆明 江藤淳 全対話 (中公文庫) - はてなキーワード

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江藤淳という人 福田和也 新潮社 2000/06 - いもづる読書日記

永遠の吉本隆明[増補版] 橋爪大三郎著 洋泉社新書Y 2012年 - いもづる読書日記

吉本隆明という「共同幻想」 呉智英著 筑摩書房 2012年 - いもづる読書日記

「知の巨人」と「最後の文士」の対談、出版されたのは江藤の没後で吉本存命中、本年2月に中公文庫で再刊されているらしい(解説は高橋源一郎)。5回の対談が収録され、それぞれ1966年、70年、70年、82年、88年に行われている。
江藤は吉本より8歳年小だが、亡くなりかたもあってか随分早く古びたと感じる。本書を読んで私的には大いに評価が上がった。さながら剣豪の果し合いのようだが、切っ先は江藤が勝っている場面が多かった。たとえば、吉本はマルクスの思想の共同性は他者を必要としないということから、孤立的に存在した知識人の生み出した文化、文学が時代を本当に転換する、共同性になりうると述べる(59ページ)。これに対し江藤は「マルクスのことはよく知りませんけれど(中略)なぜそれだけ正確な世界認識が行えたのか(中略)それがキリスト教を逆転したかたちで西欧文化の根底、民俗学の底にあるようなものにまで触れていた。だからこそ後世あれだけの階級的憎悪を組織できた」(61ページ)と返す。ゾクゾクするほど鋭い。

「保守」とはたぶん現状変更の必要が無いという考えかたで、変えない方がましという諦念を背景にしていると考える。この点、保守「思想」とか保守「主義」というのは形容矛盾ではないだろうか。本書では「幸福」ということばが使われている。江藤「漱石という人は非常に孤独な人だったと思うけど、漱石の作品は不思議に読者を孤独にしない。(中略)それは彼が個体を越えるなにかの感覚をもっていたからではないか。」(68ページ)この感覚を幸福とか伝統とよんでいる。これを「江藤淳という人」とあわせてみると、書割めいた大衆社会への憎悪、失われた幸福への憧憬と単純化してみたくなるが、たぶん違うんだろうな。

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書) 呉座勇一 中央公論新社 2016/10/19

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戦争の日本中世史: 「下剋上」は本当にあったのか (新潮選書) - はてなキーワード

南朝研究の最前線 (歴史新書y) - はてなキーワード

闇の歴史、後南朝 後醍醐流の抵抗と終焉 (角川ソフィア文庫) - はてなキーワード

異形の王権 (平凡社ライブラリー) - はてなキーワード

 

内藤湖南によって日本史最大の事件とされた応仁の乱をリアルに、ダイナミックに描いた話題の書。著者は奈良興福寺の僧侶であった経覚(きょうがく)、尋尊(じんそん)の日記という一級資料によって「戦乱の渦に巻き込まれた人々の生態をそのまますくい取る」ことに成功した。
応仁の乱は東軍に将軍足利義政、義直、西軍に足利義視があったが、西軍は南朝皇胤を抱き込んで権威の強化を図ったそうだ。南朝皇胤の政治性というか胡散臭さに心魅かれる。貴種流離譚の美しさではなく、田舎の三文芝居のような権威がロマンチックだと思う。この後室町幕府も二人の将軍が並立するようになり、やがて織田信長に滅ぼされる。しかし、そこにも虚構と区別のつかない権威の力学が存在していたように思う。

108年の幸せな孤独 キューバ最後の日本人移民、島津三一郎 中野健太著 KADOKAWA 2017/01/25

108年の幸せな孤独 キューバ最後の日本人移民、島津三一郎 - はてなキーワード

 

戦前のキューバに渡り108歳まで現地で生きた島津三一郎さんの人生をたどり、日系移民の目に映ったキューバ史を活写した快著。戦争、強制収容、革命、キューバ危機、社会主義体制下の保健制度、移民、亡命といった様々なテーマが並ぶ。キューバを語るうえでブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブは必須項目になってきたようだが、彼の国は決して老人の国ではなくむしろ若々しい印象がある。村上龍が一時キューバづいていたけど、どの本を読めばいいのかな?

バブル:日本迷走の原点 永野健二 新潮社 2016/11/18

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 私は自他ともに認める経済音痴なのだが面白く読んだ。事件史のような形式で一章が比較的短くテンポが良い。やや掘り下げが足りなく感じるがそれでこのボリュームなのだから、マテリアルが豊富で大きなテーマだということだろう。私はバブル期を体験しているのだが、書かれている事件の半分以上を知らなかったし、残りも皮相的な理解しかしていなかったことを感じた。それでもバブルが日本人の心性を変えたというテーゼは首肯せざるを得ない。日本の歴史におけるバブルの位置づけについて、より思弁的なアプローチが期待される。
 著者はNTT株上場フィーバーに触れ次のように述べる。「バブルは資本主義のエネルギーを増殖する。そして資本主義は、その功罪を運動のなかに巻き込みながら、深化し発展していくものなのである。」(124ページ)あまり賛成できないが至言と思う。この直感的な言葉を是非論証してみてほしい。