評伝田中清玄 昭和を陰で動かした男 大須賀瑞夫著 倉重篤郎編集 勉誠社 2017年2月

評伝田中清玄 昭和を陰で動かした男 [978-4-585-22168-5] - 3,520円 : Zen Cart [日本語版] : The Art of E-commerce
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筑摩書房 田中清玄自伝 / 田中 清玄 著, 大須賀 瑞夫 著

戦後日本の「フィクサー」と目された田中清玄の評伝。著者の大須賀には田中と共著の「自伝」もあり、本書はその副読本的なものか。「自伝」を先に読むべきだったかもしれない。田中は戦前の日本共産党委員長だったが、獄中で転向し「天皇主義者」となる。その転向の内実として、共産主義者だった田中を諫めるために自死した母親の人柄と、大きな影響を与えた臨済宗の僧侶山本玄峰の思想に紙幅が費やされている。母親は会津藩の家老の子孫で、現在でいうシングルマザー、看護婦、産婆として活躍し、多くの弟子を得た女傑だった。田中の行動力は母親ゆずりのところもあり、母親の自死は田中の人生をゆるがす一大事だったに違いない。
本書では山本玄峰が新憲法象徴天皇制のアイディアを提供したと語られる。あるいはGHQも同様の考えを持っていたがそれを後押ししたと。法制局長官だった楢橋渡は玄峰の考えを次のように書いている。「天皇が下手に政治や政権に興味を持ったら、内部抗争が絶えないと思う。(中略)天皇が一切の政治から超然として、空に輝く太陽のごとくしておって、今度は、その天皇の大御心を受けて、真・善・美の政治を実現するということで、眷々身を慎んで政治をすることになれば、天皇がおられても、もっと立派な民主主義国家ができるのではないか。」(261ページ)
田中の反共思想は、彼の共産主義ソ連に対する深い知識と経験(絶望?)に裏打ちされている。なにしろGPUにスカウトされたような人物だ。朝鮮戦争の勃発も見事に予言したそうである。戦後社会の混沌が感じられる好著だった。