原点 THE ORIGIN 戦争を描く,人間を描く 安彦良和, 斉藤光政 著 岩波書店 2017/03/10

原点 THE ORIGIN - 岩波書店

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あのころ、早稲田で 文藝春秋 2017.4 中野 翠 - いもづる読書日記

アニメ「機動戦士ガンダム」の作画監督であり、「虹色のトロツキー」など歴史に材をとった作品を世に送ってきた漫画家安彦良和聞き書き青森県のローカル紙である東奥日報の斉藤光政記者によるドキュメントと、各章に安彦が書き下ろした「私の原点」の2段構成からなる。特に弘前大学封鎖事件と、その責任を問われての除籍にフォーカスがあてられる。「全共闘運動をとおしてみられる一種の『軽さ』は、みずからを追いこんだ瀬戸際感覚の裏返しでもあると思うんです。革命しかないという強い思いこみ、しかも、その革命は世界規模であって、かつ歴史上起きたどの革命ともちがう形で展開してくれないとこまる。(中略)それが『戦後民主主義の正義を守る闘い』と表現された60年安保闘争と、私たちのやった70年安保の根本的に異なる部分だったのです。」(127ページ)
ガンダムが筆者より下の世代に与えた影響は極めて大きいのだが、安彦は一時期ガンダムから距離をとる。「1990年代一杯を、僕は気ままな漫画描きとしてすごす。『気ままな』といったのは『勝手に、好きなものを描く』という意味で、そんなことが出来たのは、幸か不幸か、僕が広い漫画界の片隅にしか居場所のないマイナー作家だったからだ。(中略)勝手きままな十年の夢を破ってくれたのはまたしても『ガンダム』だった。事情の説明は省略するが、世紀も代わろうとする2000年から、僕は『漫画家として』ガンダムを整理(リライト)するという仕事を、まったく予想外に始めることになる。僕の仕事生活は再びガンダム一色になり、テレビの時と違ってそれは延々と、結果としてみると十年後の2011年まで続く」(44ページ)「両者に共通する要素は『人間』である。(中略)善も悪もない。在るのはただ抗うことの出来ない巨きな情況と、小さな、しかしそれぞれが唯一の発現機会を得てこの世にいる人間とそのつながりのネットワークだけだ。僕の中で、まったくのつくり話である『ガンダム』と、近い過去や、遠い昔を思い遣って紡ぐ物語とは、こういうふうにして互いにつながっている。」(55ページ)