日中をひらいた男 高碕達之助 牧村健一郎著 朝日新聞出版 2013年12月10日

朝日新聞出版 最新刊行物:選書:日中をひらいた男 高碕達之助

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満洲暴走 隠された構造 大豆・満鉄・総力戦 安冨歩 角川新書 2015年06月17日 - いもづる読書日記

高碕達之助東洋製罐という会社を創業した経済人で、その後、日産の鮎川義介に乞われて満州重工業の副総裁(のちに総裁)となった。第二次世界大戦末期に満州に進駐したソ連軍に対し、日本人会の会長として交渉にあたった。これは「ソ連軍がその交通、その他重要産業に関する技術、及び運営に対する経歴と地位を尊重したため」(95ページ)と考えられる。「満州の戦後で、高碕がした大きな仕事は、以上のように、治安維持、在留日本人の生活安定、現地の産業復興に協力したことだった」。(102ページ)こうした経緯が、バンドン会議周恩来から「あなたを存じあげていますよ」といわれることにつながっている。企画力、実行力、交渉力に優れた人物だったようだ。
戦前、戦後を通じて日本の病理は「誤りを正せない病」だと思う。高碕達之助は原理原則の人ではなかったが、その行動には彼なりの根拠があり、一貫した姿勢があった。アメリカ生活を経験した彼が満州へ赴いた理由も、その「青々とした沃野」に魅かれたからとされるが、スケールの大きな人物像を想像させる話だ。明治は遠くなりにけりじゃないけど。