場所 瀬戸内寂聴著 新潮社 2001/05/25

瀬戸内寂聴 『場所』 | 新潮社

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あちらにいる鬼 朝日新聞出版 2019.2 井上荒野著 - いもづる読書日記

昨年(2021年)11月に99歳で亡くなった著者の、2001年作品にして最後の傑作(高橋源一郎)。執筆時に著者は78歳。自らの人生にかかわりのある場所を訪ね、人生を振り返る趣向だ。なるほど文章は素晴らしい。「たいてい幼い私は祖父の巨きな背の上で目を覚ます。まだ暁前であたりは暗く、星のまたたいている時が多かった。(中略)無言のまま、儀式のように、祖父が長い葉に宿った朝露をすくい、全身を撫でてくれる。それはひんやりと涼しく冷たく快かった。私は目を閉じうっとりとして、全身を祖父に任せきっていた。」(44ページ)
最初の3章が両親の出自や幼少期の、いわば神話時代が描かれるのに対し、残りの11章は体内の猛獣に突き動かされるように恋愛と破綻を繰り返し、最後に出家に至る点景が描かれていく。夜店の見世物のようでもある。違うのは叫んでいるのは真実の人間であることだ。自分が平凡な人間であることを感謝した。井上光晴が著者より4歳年少であることは意外だった。