フクシマ 土壌汚染の10年: 放射性セシウムはどこへ行ったのか (NHKブックス 1268) 中西友子 2021/4/26

NHKブックス No.1268 フクシマ 土壌汚染の10年 放射性セシウムはどこへ行ったのか | NHK出版

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ザイルの二人 満則・秋子の青春登攀記 (山渓ノンフィクション・ブックス)鴫 満則 鴫 秋子 1983.1 山と渓谷社 - いもづる読書日記

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NHKブックス No.1208 土壌汚染 フクシマの放射性物質のゆくえ | NHK出版

東京電力福島第一原子力発電所の事故にともなう、福島県の土壌汚染の農産物に対する影響について述べた本。放射能の吸収や移動のメカニズムについて、具体的なデータに基づき、精緻な議論が展開される。こうした本を刊行された御努力に敬意を表したい。
登山で極地法(ポーラー・メソッド)というのがある。ヒマラヤなどでベースキャンプから段階的にキャンプを作って頂上を目指すものである。この場合、最前線でルートを切り拓く人と、キャンプに荷揚げをする人には格差が生じる。それを潔しとしない登山家は衣食住を背負って、少人数で頂上を目指すわけだが、これをアルパイン・スタイルと呼んだ。80年ごろはこうした対立というか対比が存在したが、ヒマラヤ登山の目標が未踏峰からバリエーション・ルート開発に移って、こうした対比もなくなってしまった。自然科学も予算と人数、戦略が必要な点で極地法登山に似ている。一方で、既存の文献を渉猟してアームチェア・デテクティブよろしく考え方の新しさで勝負するアルパイン・スタイルな研究者もいる。どちらが偉いということではないが、大集団をマネージするリーダーが、象牙の塔タイプの研究者とは大分違うタイプであることは間違いないだろう。著者は優秀なリーダーなのだろうが、あとがきに列挙された「東京大学大学院農学生命科学研究科」にちょっと辟易としたのも事実だ。