音楽と生命/坂本 龍一/福岡 伸一 | 集英社 ― SHUEISHA ―
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少年とアフリカ 坂本龍一 天童荒太 文春文庫 2004年04月06日 - いもづる読書日記
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奥付けでは3/29発行になっている、亡くなった次の日だ(報道されたのは4/1)。本書の内容は2017年のNHKのSwitchインタビューなので、対談が行われたのはその頃。センスの良い製本で、題材の選択とともに良質の知性がアピールされている。
坂本龍一の「緩慢な死」について考えていた。しばらく前から「終活」然とした活動を繰り返していたからだ。おそらく、それを「緩慢な死」と呼ぶのは間違っていた。坂本は強い意志をもって見事な晩年を生きたのだ。最後に見せたピアノ独奏は見事だった。自分の至った境地を示すということからすれば、グレン・グールドに比肩するパフォーマンスだった。それをきちんと現代の技術で配信し、マネタイズしてみせたのは坂本の面目躍如だった。デヴィッド・ボウイは自らの死を予見しながら、大傑作である遺作「ブラック・スター」を制作した。いかにもボウイらしい、けれん味に満ちた最期だった。坂本がこれを意識しなかったとは思われない。現代の芸術は資本主義と無縁に生きることはできない。ロックはこの点に最も自覚的な表現だ。ロックは反逆を歌いながら、その歌を売ることに矛盾を感じない。これがポスト資本主義のダイナミズムだ。バブル経済の唯一の遺産かもしれない。坂本の和声にクロード・ドビュッシーや武満徹の影響を見出すことは容易い。しかし、その一方で坂本はロックの音楽的な暴力性を、暴力の持つ可能性を正しく理解していた。「現代音楽」が終わった世界で、音楽が何が出来るかを模索したのが、坂本だった。彼自身をプロダクトにすることによって、資本主義に抗していける、違うな、海を泳いで行けることを示した。それ自体が表現だった。