日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 小熊英二 講談社現代新書 2019年07月17日

『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』(小熊 英二):講談社現代新書|講談社BOOK倶楽部

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小熊英二社会学者なのか?歴史学者なのか?いずれにせよ、近現代の日本をターゲットに、「単一民族神話の起源」、「〈民主〉と〈愛国〉」など膨大な史料を駆使して、先入観を打破するような仕事を続けている。近年の収穫は「1968」だった。若造だった頃、呉智英のブックガイド本で網野善彦阿部謹也を猛プッシュしていたが、私が今同じようなことをするなら、小熊英二を推すことになるだろうな、読むのは大変だけど。
本書は終身雇用制、年功序列で特徴付けられる日本の雇用制度が、社会の全体を規定するものではない(1/3程度)、それほど古い起源を持っているものではないこと、様々な事情で成立したことを、膨大な史料を駆使して明らかにしている。最終章で著者はこのように述べる。「だが、こうした『しくみ』は、経営側の意向だけではなく、『社員の平等』を志向した労働者たちの合意によって形成されたものでもあった。(中略)アメリカの労働者たちは、職務がなくなれば一時解雇されることを受け入れ、職員と現場労働者の間に階級的な断絶があることを受け入れた。一方で日本の労働者たちは、経営の裁量で職務が決まることを受け入れ、他企業との間に企業規模などによる断絶があることを受け入れたのである。」(563ページ)「これまでも日本の雇用慣行の改革は叫ばれたが、その多くは失敗した。なぜかといえば、新しい合意が作れなかったからである。1990年以降の『成果主義』も労働者の合意が得られないため、士気の低下や離職率の増大を招き、中途半端に終わることが多かった。」(570ページ)「だがそうはいっても、社会を構成する人々が合意しなければ、どんな改革も進まない。日本や他国の歴史は、労働者が要求を掲げて動き出さないかぎり、どんな改革も実質化しないことを教えている。そうである以上、改革の方向性は、その社会の人々が何を望んでいるか、どんな価値観を共有しているかによって決まる。」(576ページ)
日本人の決められない病の病根は、症状の対象化、文節化が不十分であることではないだろうか。本書の方法論である、堅固なデータによる客観的な評価は、病に立ち向かう勇気を与えてくれるだろう。敵を設定して攻撃すれば事足りるような単純な考えに陥らないようにしたいものだ。