博士漂流時代 榎木英介著 ディスカバー・サイエンス 2010/11/15、高学歴ワーキングプア「フリーター生産工場」としての大学院 水月昭道著 光文社新書 2007/10/16

博士漂流時代 | ディスカヴァー・トゥエンティワン - Discover 21

高学歴ワーキングプア 水月昭道 | 光文社新書 | 光文社

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嘘と絶望の生命科学 榎木英介 文春新書 2014年07月18日 - いもづる読書日記

海外で研究者になる: 就活と仕事事情 中公新書 増田直紀 中央公論新社 2019/06/25 - いもづる読書日記

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『研究不正と歪んだ科学—STAP細胞事件を超えて』(編著:榎木英介) | Web日本評論

 

ポスドク問題を扱った二著。大学院重点化のポジティブな面、つまりかつての講座制の持っていたパターナリズムの弊害の解消、ポスドク優遇によって学問の世界に入りやすくなったこと、ポスドクによる研究室の研究力の向上と学生、院生依存からの脱却といった事象が語られない。危機感を煽る記述は学問的とはいえず、特に「高学歴~」は大分編集者が介入したと見えて、研究者ならこうは考えないんじゃないかというところも多い。「第6章行くべきか、行かざるべきか、大学院」は御自分の研究内容が出てくるのだが、ここだけ筆致が異なるような気がする。「博士」というのは事実上国際基準で、海外に行けばそれなりに扱われる、学者クラブの入館証みたいなものだ。努力次第で飛躍する道も開けることは「海外で研究者になる」にも述べられている通りだ。こうした側面も押さえておかないとミスリーディングだと思う。
とはいえ、ポスドク問題が厳然と存在するのは確かだ。日本の社会が再チャレンジを受け入れる、ダイナミックな構造へと変化する必要がある。もとめられるのは「目利き」だと思う。研究費を配分するサイドに研究を評価する能力が無いから、成長が見込まれるセクターに投資できない。企業の採用担当に人材の評価ができないから、可能性のある博士を採用することができない。世の中がよりシビアな競争社会になる一方で、競争が公正に行われることが保証される社会に、競争はあるけどそれがおおらかに受け入れられる社会に~~。むつかしいかぁ~。