霧の彼方 須賀敦子 若松英輔著 2020年06月26日 集英社

 

霧の彼方 須賀敦子 | 集英社 文芸ステーション

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飛行機の中で「ヴェネツィアの宿」を読んだことがある。着陸とともに父君が亡くなるエンディングを迎えた。須賀敦子を読むとしばらく頭が占領される。思いが並外れて強く、紙幅を超えて伝染してくるような気がする。思いの強さがキリスト教の所為とは思わないが、彼女の思いにこたえてくれるのがキリスト教だった、コルシア書店に象徴される運動体だったのは確かだった。
本書は須賀敦子がどのような思想的背景から生まれたかを解説してくれる。「没後に『全集』が刊行され、須賀とカトリックの関係は文献上からも明らかになった。しかし、彼女の生前は状況が違った。これまで見てきた通り、須賀は二十世紀中盤、激動するカトリックの世界のありようをなまなましく目撃してきた人物だった。フランス、ローマ、ミラノで彼女はカトリックという霊性が、他の宗教、他の霊性に開かれていく動きを見ただけでなく、それを作り出す側のひとりでもあった。」(457ページ)

宗教は頭が作り出す現象、人工物でありながら、(日本でいうところの)民俗学的な背景がないと正当性が保てないのかもしれない。日本のようなヨーロッパの伝統から遠い世界では、骨皮筋衛門ではあるが、論理的なプロテスタントの方がアプローチしやすい。須賀のおもいの深さにはなかなか届かない。