誰が星の王子さまを殺したのか――モラル・ハラスメントの罠 安冨歩 明石書店 2014/8/29

星の王子さまは「モラハラ」で殺された!? (安冨 歩) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)

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「学歴エリート」は暴走する 「東大話法」が蝕む日本人の魂 講談社+α新書 安冨歩 2013年06月21日 - いもづる読書日記

安冨歩による「星の王子さま」の読解。王子が最後に毒蛇に自分を噛ませて自殺するに至る原因として、バラのモラル・ハラスメントと、キツネのセカンド・ハラスメントが抽出される。そして「外部から見ている者自身が、何らかの形でモラル・ハラスメントを受けていると、この事実は見えなくなる。(中略)なぜなら親から与えられたはずの『愛』が、実は偽物であって、本当は『虐待』であった、という事実に直面するのが恐ろしいからである。(中略)言うまでもないが、『星の王子さま』の主題は、子どもの持つ真実を見抜く力である。(中略)バラと王子とキツネとの関係を主軸として展開される地獄のモラル・ハラスメントは、子どもの真実を見抜く力によってはじめて、打破しうるからである。」(163ページ)と述べる。ナチスの暴力がヨーロッパを覆う不安な時代背景と、その狂気と児童虐待の関係を描いてスリリングである。
おそらく、安冨の感受性、ヴァルネラビリティが本書を実現しているものと思われる。本書の成立は「あとがき」で示され、巻末に藤田義孝氏の「解題」も付する徹底ぶりである。多様な引用文献を組み合わせて丁寧に展開される記述は説得力に富む。それぞれを読みたくなってしまうのが欠点かな。本書は、自分はどうなの?と考えさせる力を持つ。子ども時代は黄金の霞のかなたにあってほしいと思うが、人間は見たくないことは見ないというのがフロイト以降の人間理解であることを考えると、自分も何らかの傷を負っていると考えざるを得ない。かといって、分析家を受診するほど生きづらいわけでもない。それが日本の現状といえるだろうか。