恋する文化人類学者 鈴木裕之著 世界思想社 2015/01/20

恋する文化人類学者 - 世界思想社

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グリオの音楽と文化 - 株式会社 勁草書房

コート・ジヴォワールをフィールドとする文化人類学者が、自らの結婚を描いた本。しかもお相手はダンサー・歌手として活躍されていた方。グリオの家系で、モリ・カンテとは親戚筋、父上はサリフ・ケイタのいたバンド「アンバサドゥール」でベースを弾いていたというから本物だ。自らの体験を語りながら、文化人類学の理論も学べる素晴らしい本。「注」も充実していて、今後の読書に役立ちそうだ。
楽しい本なのだが次のような苦い言葉も率直に表される。「人類学者は悩んでいる。苦悩している。なにについて。文化人類学の存在意義について。(中略)帝国主義植民地主義の最盛期に生まれた文化人類学。この学問は、支配する欧米諸国の白人が支配されるアジア・アフリカ諸国の諸民族やアメリカ先住民の生態を把握しようとする過程で誕生したといってよかろう。まずはこの『不純』な動機がわれわれを苦しめる。」(215ページ)「だが、じつはここからが文化人類学の本当の醍醐味なのである。(中略)あなたがオールド・スクールの文化人類学をしっかりと理解し、その問題点を把握できるようになったなら、次なる扉を開き、まさに今現在われわれの生きている現実を語ってくれるニュー・スクール文化人類学の世界を楽しむことができるだろう。」(217ページ)