人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」 中公新書 中央公論新社 2022/02 篠田謙一著

人類の起源 -篠田謙一 著|新書|中央公論新社

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『ネアンデルタール人は私たちと交配した』スヴァンテ・ペーボ 野中香方子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS

近年、長足の進歩を遂げた古代人類のゲノム研究についてまとめた本。触れられるエビデンスが膨大で、ゲノム解析の技術的進展などには紙幅が割けないようだ。ちょっと驚いたのは、ネアンデルタール人が暮らしていた洞窟の堆積物からもミトコンドリアDNAや核ゲノムの一部が検出されていることだ。「ネアンデルタール人は私たちと交配した」では、古代サンプルの現代人による汚染の問題が描かれていたが、遺伝子データベースが完備した現在では、得られたデータが古代のものかアーチファクトか、データそのものから判定できるということか。
古代ゲノムの研究によってこれまでの古人類学が否定されているわけではなく、骨格標本の分類や土器石器の編年的研究がゲノム解析によって補強されている段階と言えるようだ。特に面白かったのは、言語学への波及だ。「2009年には、東南アジアから北東アジアにかけての現代人集団のゲノムデータが解析され、アジアの集団の遺伝滝な分布は基本的に言語集団に対応していることが示されています。(中略)婚姻は基本的に同じ言語グループの中で行われますから、当然の結果でしょう。文化のもっとも重要な要素は言語であり、それが集団の遺伝的な構成を規定しているのです。」(174ページ)これまで行われた来た様々な研究が、ゲノムデータというエビデンスによって裏付けられたり、再考を迫られたりする現状が興味深い。