暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄 (文春新書) 顔伯鈞, 安田峰俊 文藝春秋 2016/06/20

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丹羽宇一郎 習近平の大問題: 不毛な議論は終わった。丹羽宇一郎 東洋経済新報社 2018/12/14 - いもづる読書日記

中国社会の閉塞感について書きたい。今年の6月9日は天安門事件から30周年だったわけだが、中国では決して話題にならない。日本でも全く盛り上がらなかったのが実情だろう。中国のインターネットは金盾(グレート・ファイアウォール)によって遮断され、中国共産党や政治家に不都合な情報にアクセスできないようにブロッキングとフィルタリングが行われている。北京市内では地下鉄駅や観光スポットでのセキュリティチェックが徹底され、一旅行者でも閉塞感を感じた。
本書は民主化運動に加担した著者が中国国内を逃亡、当局による逮捕と釈放を経て、タイへ亡命するまでを自ら語っている。大学教員だった著者が迫害と逃亡を通じ、人間の温かさに気づくビルドゥングス・ロマンとしても読める。「中華文明5000年の歴史において、読書人とは常に天下の興亡を己の大事と考え、天下の憂に先んじて憂い、天下の楽しみに遅れて楽しむことをもって任ずる人々のはずであった。だが、現代に中国において、読書人のタマゴたる大学生は世知に長けるばかり(後略)」(45ページ)というような大時代な慨嘆は中国らしいか。本編は編者の安田峰俊氏が整理しているようだが、「おわりに」は著者の肉声と思われる。それは「現代はすなわち、中国が5000年の歴史文化と人文科学的なリテラシーの教育を閉ざされ、中国人の思想が硬直化した荒寥たる時代だ」(250ページ)という絶望的な現状認識だ。しかし、「習近平の大問題」のところで書いた現代中国の荒々しさは、人民中国だから生まれたもので、「読書人」の知性からIT技術は生まれないだろう。中国人にとっては冗談ではなかろうが、人口14億人をかかえる特異な国を運営しようという実験が上手くいくのか、固唾を飲んで注視している。