メンター・チェーン ノーベル賞科学者の師弟の絆 ロバート・カニーゲル 工作舎 2020.12

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海外で研究者になる: 就活と仕事事情 中公新書 増田直紀 中央公論新社 2019/06/25 - いもづる読書日記

亀和田武さんだったか、中島梓さんだったか、「第一次SF黄金時代はいつか?」という小噺を書かれていたことがあった。H.G.ウェルズとかアイザック・アシモフとか名前が挙がるが、記憶が確かなら正解は「12歳」だそうだ。人間が自己形成期を忘れないように、研究者も研究者としての自己形成期を忘れない。そしてその記憶は師匠(メンター)とともにある。
本書は設立当初のNIH周辺を舞台に、科学者の師匠と弟子を、つづいていく鎖のような関係と捉えた本。科学者を扱った本としてはエブリン・フォックス ケラー「動く遺伝子」(晶文社 1987/11/15)に匹敵する面白さだった。たまたま自分が専攻していた領域に近かったこともあって、楽しく読んだ。訳文も極めて適切と思う。"radioactivity"を「放射活性」と書くことを除いて(「放射能」であるべき)。カテコラミン代謝HPLCも無い時代に研究されていたのは驚きだ。冒頭にソロモン・スナイダーが師匠であるジュリアン・アクセルロッドの許で研究した時代を思い出すシーンが描かれる。それこそ彼の「黄金時代」であったに違いない。
「『NIHが医学研究のメッカであると言われる理由がここにあります。』と米国軍保健衛生大学(USUHS)の薬理学部長であるルイス・アナロウは、身振りでベセスダのロックヴィル・パイクの両側に広がるNIHの建物群を示しながら言った。『現在、英語が世界で科学の公用語になっているのは、理由があります。それはジェームズ・シャノンです。』」(42ページ)時代が変わっていく瞬間もまた別の「黄金時代」かもしれない。