細野晴臣と彼らの時代 門間雄介 文藝春秋 2020年12月17日

『細野晴臣と彼らの時代』門間雄介 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS

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橘川幸夫/ロッキング・オンの時代

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はっぴいえんどからイエロー・マジック・オーケストラを経て、一昨年(2019年)にデビュー50周年を迎えた細野晴臣の伝記。著者は元ロッキング・オン社の編集者とのことだ。引用文献の数に圧倒される。これらを縦横に引用し、キー・パーソンへのインタビューを交えて、細野を立体的に描写することに成功している。細野の語られざる側面、過換気症候群に悩んだことや、それを契機とした精神世界への傾斜、にも切り込み、断片的な情報ではよくわからない点が整理されたように思う。「『HOSONO HOUSE』のころ、彼はシリアスな状況にあり、不安や恐怖から逃れるためには、心構えや生き方を変えなければいけなかった。より楽天的になる必要があった。そんなときに彼を手助けしたのがエキゾチック・サウンドだった。」(261ページ)そう、私が細野さんに惹かれるのは、その楽天性にあった!
だが、細野にはこんな側面もあったようだ。松本隆は「風をあつめて」のレコーディングを振り返って、こう語っている。「細野さんに『大滝さんは?』って聞いたら、必要ないから呼ばなかったって。悪気はまったくないんだよね、あの人。細野さんは自分のやりたいことしかない人だからさ。でも大滝さんはそういうことに傷ついて、結局解散に向かっていくんだけど。」(153ページ)忌野清志郎は細野をこう評している。「細野さんの声は低音だ。いい声をしている。みんなその声に翻弄されてか、おとなっぽい人だと思っていると思うが、実はスゴーイ子供っぽいのだ。実生活に決して適さないタイプの人なのだ。」(395ページ)
最近、ロング・バケーション40周年ということで大きく扱われている大滝詠一だが、大滝が亡くなる少し前に、細野が「手伝うから、曲を作ろうよ」と人づてに働きかけたことが本書でも語られる。陳腐な言いかたになるが、細野も大滝も根底にあるのは音楽への愛だったと思う。こども時代に聞いたアメリカン・ポップ・ミュージックを愛し、それを再発見していくことが彼らの成長期であり、二人はなくてはならない仲間だったのだ。その後ライバル関係になり、作る音楽も異なっていったが、音楽を獲得していった経験、「メンター・チェーン」で描かれた自身の黄金時代が、彼らの探求の推進力となったのではないだろうか。お互いの黄金時代の記憶にお互いが存在する、そんないわくいいがたい関係にあったのでは。