サハラ砂漠 塩の道をゆく 片平孝 集英社新書ヴィジュアル版 2017年5月17日

<ヴィジュアル版> サハラ砂漠 塩の道をゆく – 集英社新書

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トゥアレグ 自由への帰路 デコート豊崎アリサ 2022/3/17 イースト・プレス - いもづる読書日記

トゥアレグ」を読んだときに本書の存在も知った。本書のキャラバンは2003年時点で、マリのトンブクトゥからタウデニ岩塩鉱山を往復。キャラバンはトゥアレグ族とベラビッシュ族の混成部隊なこともあってか、少し視点も異なる。「トゥアレグ族は迷信深く、悪霊が入り込まないように鼻や口をターバンで隠している。(中略)アザライの大半がアラブ人なのに、この大集団はトゥアレグ族自身の身を守るための護送船団である。(中略)トゥアレグ族は砂漠の略奪者として常に恐れられてきた。(中略)そのためトゥアレグ族のアザライは逆襲を恐れ、かつて隊商たちが護送船団を組んだように、大キャラバンで塩を運んでいる。」(127ページ)
マリ共和国は2012年以来、トゥアレグ独立運動、軍事クーデター、イスラム軍事組織や軍事会社ワグネルの介入など流動的な状態が続いている。

リスペクト ブレイディみかこ著 筑摩書房 2023/08

リスペクト R・E・S・P・E・C・T ブレイディみかこ | 筑摩書房

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両手にトカレフ ブレイディみかこ著 2022年6月 ポプラ社 - いもづる読書日記

ザ・レインコーツ──普通の女たちの静かなポスト・パンク革命 ジェン・ペリー著 2021/11/26 Pヴァイン - いもづる読書日記

面白かった。あまりマニアックにならず、好作品に仕上げた。各所に配された登場人物のマンガやホームページが「売ろう」という意志を感じる。
随分と労働党に手厳しい。「ジリアン区長は、ジェイドが子どもの頃に首相だった。トニー・ブレアという人と雰囲気がよく似ていた。口元は腹話術の人形みたいに緩んでいるのに、目が全然笑っていないこところまでそっくりだ。」(45ページ)ブレイディさん、どこかで「バック・トゥ・ベイシック。労働者は労働党」とぶったように書かれていたが。

人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」 中公新書 中央公論新社 2022/02 篠田謙一著

人類の起源 -篠田謙一 著|新書|中央公論新社

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『ネアンデルタール人は私たちと交配した』スヴァンテ・ペーボ 野中香方子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS

近年、長足の進歩を遂げた古代人類のゲノム研究についてまとめた本。触れられるエビデンスが膨大で、ゲノム解析の技術的進展などには紙幅が割けないようだ。ちょっと驚いたのは、ネアンデルタール人が暮らしていた洞窟の堆積物からもミトコンドリアDNAや核ゲノムの一部が検出されていることだ。「ネアンデルタール人は私たちと交配した」では、古代サンプルの現代人による汚染の問題が描かれていたが、遺伝子データベースが完備した現在では、得られたデータが古代のものかアーチファクトか、データそのものから判定できるということか。
古代ゲノムの研究によってこれまでの古人類学が否定されているわけではなく、骨格標本の分類や土器石器の編年的研究がゲノム解析によって補強されている段階と言えるようだ。特に面白かったのは、言語学への波及だ。「2009年には、東南アジアから北東アジアにかけての現代人集団のゲノムデータが解析され、アジアの集団の遺伝滝な分布は基本的に言語集団に対応していることが示されています。(中略)婚姻は基本的に同じ言語グループの中で行われますから、当然の結果でしょう。文化のもっとも重要な要素は言語であり、それが集団の遺伝的な構成を規定しているのです。」(174ページ)これまで行われた来た様々な研究が、ゲノムデータというエビデンスによって裏付けられたり、再考を迫られたりする現状が興味深い。

トゥアレグ 自由への帰路 デコート豊崎アリサ 2022/3/17 イースト・プレス

書籍詳細 - トゥアレグ 自由への帰路|イースト・プレス

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恋する文化人類学者 鈴木裕之著 世界思想社 2015/01/20 - いもづる読書日記

男も女もみんなフェミニストでなきゃ チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ 著 河出書房新社 2017.04.18 - いもづる読書日記

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<ヴィジュアル版> サハラ砂漠 塩の道をゆく – 集英社新書

著者の映画"Caravan to the Future"の上映会で購入。映画は本書の中盤部までで、以降の話は少しニュアンスが変わる。舞台はニジェールアルジェリア、マリ。植民地主義の都合で引かれた国境を超えて交易する少数民族トゥアレグの話。各章の扉に地図が付されているが、同じ町だが位置付けが変わっていくことが面白い。第8章「放射能の砂漠」で一気に風景が変わる。
トゥアレグといえばティナリウェンやタミクレストの”砂漠のブルーズ”だが、本書ではこのように書かれている。「その音楽はカダフィ大佐の軍事キャンプで生まれたのだ。リビアからAK47エレキギターを持って帰ったトゥアレグが、マリ、ニジェールアルジェリアの各地へ音楽を広めた。」(48ページ)
著者は本書をこのように結ぶ。「干ばつ、戦争、定住化、失業、テロ。時代が変わるにつれ、様々な混乱に翻弄されて、砂漠には人が少なくなった。しかし、この土地から離れないトゥアレグ族は、今でも大切なことを伝え続けている。サハラは昔、国家の圧力、宗教の服従を逃れた彼らを歓迎した。何もない砂漠で、彼らは名誉の掟に従う誇り高い文明を築いた。何もない砂漠で、彼らは永遠の自由を勝ち取ったのだ。」(419ページ)

坂本図書 坂本龍一企画・原案, 空里香監修 バリューブックス・パブリッシング 2023/9/27

坂本図書

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ぼくはあと何回、満月を見るだろう 坂本龍一 2023/06/21 新潮社 - いもづる読書日記

原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語 安冨歩 著 明石書店 2012/01/06 - いもづる読書日記

36冊の本が紹介されるブックガイドと最近読んでいる10冊という鈴木正文との対談。後者は3月8日に行われたとのことなので、亡くなる20日前まで知的好奇心は旺盛だったと。何人か、Radio Sakamotoやニューイヤー・スペシャルで紹介された人もあって、自分の興味のもとも多くは坂本にあったんだなあと再認識している。サウンド・ストリート以来ずっと影響下であったか。作本を見ると、あの本本堂未刊行図書目録に通じるところもある。
私が勝手に感じただけかもしれないが、坂本がディレッタンティズムを表に出してきたのは年がいってからじゃないだろうか。坂本は手の早い作曲家で、極めてproductiveだったと多くの人が言っているが、職人肌というのとも違って、やはり芸術家だったのだろう。この本に横溢する言葉が芸術家としての彼を助けたのか?足を引っ張ったのか?なんとなく豊かな、幸福な人生だったんじゃないかなと思う。

同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬 2021/11/17 早川書房

同志少女よ、敵を撃て | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン

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「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略 小泉悠 2019/06/25 東京堂出版 - いもづる読書日記

女たちのテロル ブレイディみかこ著 岩波書店 2019/05/30 - いもづる読書日記

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戦争は女の顔をしていない - 岩波書店

ウクライナ戦争が始まった頃、参考図書としてもてはやされた本。旧ソ連の女性狙撃兵が主人公の小説。登場するリュドミラ・パヴリチェンコは実在の人物なので、こうした部隊があったのかもしれない。
「世界広しといえどソ連が唯一前線における『女性兵士』を生んだ理由が何であったのか、未だ明快な答えは見つからないが、それがなんであれ、戦争の終結とともに無用になったことは事実だった。戦後ソ連が顕彰したのは、武器を手に戦地で戦った男たちと、その帰りを待ち、銃後を支えた貞淑な女たちだった。復活した『男女の役割』は軍隊内にも波及し、女性は戦闘職ではなく支援職という古式ゆかしい棲み分けがなされた。生きて帰った女性兵士は敬遠され、特に同じ女性から阻害された。」(468ページ)
社会主義的な言説は、今となっては書割の三文芝居のようだが、奇妙が魅力がある。しめつけられ判断力を奪われる一方、関心を日々の暮らしの矮小化して暮らす心地良さ。スローガンの指し示す空虚な理想社会、人類の進歩に対する信頼がまだ残っていた時代。

アルツハイマー病研究、失敗の構造 カール・ヘラップ みすず書房 2023年8月10日

アルツハイマー病研究、失敗の構造 | みすず書房

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アルツハイマー征服 下山進 KADOKAWA 2021年01月08日 - いもづる読書日記

老化とは何か 今堀和友著 岩波新書新赤版297 1993/09/20 - いもづる読書日記

メンター・チェーン ノーベル賞科学者の師弟の絆 ロバート・カニーゲル 工作舎 2020.12 - いもづる読書日記

抗うつ薬の功罪 | みすず書房

治療薬の厚労省認可で話題になっているアルツハイマー病について、その研究・開発の問題点を述べた本。いわゆるアミロイドカスケード仮説がドグマとなって、他の研究の発展を妨げた、抗アミロイド薬にのみ薬剤開発のリソースが割かれ結果として不十分な治療効果と強い副作用を持つ薬剤しか得られなかったと批判する。ポレミカルな本だが、著述はわかりやすく、訳文もよくこなれている。「メンター・チェーン」に匹敵する面白さだった。引用文献も過不足なく配され、やる気になれば著者の主張の根拠も参照できるようになっている。
原著は2021年MIT Pressから出ている。日本ではみすず書房から出ていることに注目したい。みすず書房は「抗うつ薬の功罪」という本も出版しているが、こうした批評性の強い本が、人文系の出版社から出ていることをよく考えてみなくてはならない。私見では、科学にも批評があって然るべきだし、そうした鋭利なジャーナリズムも必要。この本に対するつっこんだ書評なんかも期待される。
著者の主張の中で最も重要なのは、NINCDS-ADRD2011年基準が「前臨床アルツハイマー病」を導入したことではないだろうか。「『前臨床』と名づけたのは、脳内にプラークの生じている人(もしくは脳脊髄液に異常な量のアミロイドが確認される人)は健康ではないといいたいからだ。そういう人はすでにアルツハイマー病にかかっていて、ただ症状が現れていないだけだと説く。これは極めて巧みな柔術の技である。(中略)高齢者の三割はプラークが見られても脳機能は正常だというのに、この著者らの主張どおりならそういう人たちは『プラークができているだけの健常者』ではなくなる。『症状がないだけの病人』になる。」(216ページ)少なくとも、これはカルトの世界に似ている。アルツハイマー治療薬は、「疾患修飾薬」と呼ばれつつあるが、ドグマを成り立たせるための修辞法であることがわかる。そういえば少し前には「根本治療薬」が流行ったこともあったな。ところで、本書は一貫して「プラーク」を用いているが、「老人斑」との語感の違いを意識しているのであれば、これもなかなか戦略的である。