トゥアレグ 自由への帰路 デコート豊崎アリサ 2022/3/17 イースト・プレス

書籍詳細 - トゥアレグ 自由への帰路|イースト・プレス

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恋する文化人類学者 鈴木裕之著 世界思想社 2015/01/20 - いもづる読書日記

男も女もみんなフェミニストでなきゃ チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ 著 河出書房新社 2017.04.18 - いもづる読書日記

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<ヴィジュアル版> サハラ砂漠 塩の道をゆく – 集英社新書

著者の映画"Caravan to the Future"の上映会で購入。映画は本書の中盤部までで、以降の話は少しニュアンスが変わる。舞台はニジェールアルジェリア、マリ。植民地主義の都合で引かれた国境を超えて交易する少数民族トゥアレグの話。各章の扉に地図が付されているが、同じ町だが位置付けが変わっていくことが面白い。第8章「放射能の砂漠」で一気に風景が変わる。
トゥアレグといえばティナリウェンやタミクレストの”砂漠のブルーズ”だが、本書ではこのように書かれている。「その音楽はカダフィ大佐の軍事キャンプで生まれたのだ。リビアからAK47エレキギターを持って帰ったトゥアレグが、マリ、ニジェールアルジェリアの各地へ音楽を広めた。」(48ページ)
著者は本書をこのように結ぶ。「干ばつ、戦争、定住化、失業、テロ。時代が変わるにつれ、様々な混乱に翻弄されて、砂漠には人が少なくなった。しかし、この土地から離れないトゥアレグ族は、今でも大切なことを伝え続けている。サハラは昔、国家の圧力、宗教の服従を逃れた彼らを歓迎した。何もない砂漠で、彼らは名誉の掟に従う誇り高い文明を築いた。何もない砂漠で、彼らは永遠の自由を勝ち取ったのだ。」(419ページ)

坂本図書 坂本龍一企画・原案, 空里香監修 バリューブックス・パブリッシング 2023/9/27

坂本図書

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ぼくはあと何回、満月を見るだろう 坂本龍一 2023/06/21 新潮社 - いもづる読書日記

原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語 安冨歩 著 明石書店 2012/01/06 - いもづる読書日記

36冊の本が紹介されるブックガイドと最近読んでいる10冊という鈴木正文との対談。後者は3月8日に行われたとのことなので、亡くなる20日前まで知的好奇心は旺盛だったと。何人か、Radio Sakamotoやニューイヤー・スペシャルで紹介された人もあって、自分の興味のもとも多くは坂本にあったんだなあと再認識している。サウンド・ストリート以来ずっと影響下であったか。作本を見ると、あの本本堂未刊行図書目録に通じるところもある。
私が勝手に感じただけかもしれないが、坂本がディレッタンティズムを表に出してきたのは年がいってからじゃないだろうか。坂本は手の早い作曲家で、極めてproductiveだったと多くの人が言っているが、職人肌というのとも違って、やはり芸術家だったのだろう。この本に横溢する言葉が芸術家としての彼を助けたのか?足を引っ張ったのか?なんとなく豊かな、幸福な人生だったんじゃないかなと思う。

同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬 2021/11/17 早川書房

同志少女よ、敵を撃て | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン

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「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略 小泉悠 2019/06/25 東京堂出版 - いもづる読書日記

女たちのテロル ブレイディみかこ著 岩波書店 2019/05/30 - いもづる読書日記

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戦争は女の顔をしていない - 岩波書店

ウクライナ戦争が始まった頃、参考図書としてもてはやされた本。旧ソ連の女性狙撃兵が主人公の小説。登場するリュドミラ・パヴリチェンコは実在の人物なので、こうした部隊があったのかもしれない。
「世界広しといえどソ連が唯一前線における『女性兵士』を生んだ理由が何であったのか、未だ明快な答えは見つからないが、それがなんであれ、戦争の終結とともに無用になったことは事実だった。戦後ソ連が顕彰したのは、武器を手に戦地で戦った男たちと、その帰りを待ち、銃後を支えた貞淑な女たちだった。復活した『男女の役割』は軍隊内にも波及し、女性は戦闘職ではなく支援職という古式ゆかしい棲み分けがなされた。生きて帰った女性兵士は敬遠され、特に同じ女性から阻害された。」(468ページ)
社会主義的な言説は、今となっては書割の三文芝居のようだが、奇妙が魅力がある。しめつけられ判断力を奪われる一方、関心を日々の暮らしの矮小化して暮らす心地良さ。スローガンの指し示す空虚な理想社会、人類の進歩に対する信頼がまだ残っていた時代。

アルツハイマー病研究、失敗の構造 カール・ヘラップ みすず書房 2023年8月10日

アルツハイマー病研究、失敗の構造 | みすず書房

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アルツハイマー征服 下山進 KADOKAWA 2021年01月08日 - いもづる読書日記

老化とは何か 今堀和友著 岩波新書新赤版297 1993/09/20 - いもづる読書日記

メンター・チェーン ノーベル賞科学者の師弟の絆 ロバート・カニーゲル 工作舎 2020.12 - いもづる読書日記

抗うつ薬の功罪 | みすず書房

治療薬の厚労省認可で話題になっているアルツハイマー病について、その研究・開発の問題点を述べた本。いわゆるアミロイドカスケード仮説がドグマとなって、他の研究の発展を妨げた、抗アミロイド薬にのみ薬剤開発のリソースが割かれ結果として不十分な治療効果と強い副作用を持つ薬剤しか得られなかったと批判する。ポレミカルな本だが、著述はわかりやすく、訳文もよくこなれている。「メンター・チェーン」に匹敵する面白さだった。引用文献も過不足なく配され、やる気になれば著者の主張の根拠も参照できるようになっている。
原著は2021年MIT Pressから出ている。日本ではみすず書房から出ていることに注目したい。みすず書房は「抗うつ薬の功罪」という本も出版しているが、こうした批評性の強い本が、人文系の出版社から出ていることをよく考えてみなくてはならない。私見では、科学にも批評があって然るべきだし、そうした鋭利なジャーナリズムも必要。この本に対するつっこんだ書評なんかも期待される。
著者の主張の中で最も重要なのは、NINCDS-ADRD2011年基準が「前臨床アルツハイマー病」を導入したことではないだろうか。「『前臨床』と名づけたのは、脳内にプラークの生じている人(もしくは脳脊髄液に異常な量のアミロイドが確認される人)は健康ではないといいたいからだ。そういう人はすでにアルツハイマー病にかかっていて、ただ症状が現れていないだけだと説く。これは極めて巧みな柔術の技である。(中略)高齢者の三割はプラークが見られても脳機能は正常だというのに、この著者らの主張どおりならそういう人たちは『プラークができているだけの健常者』ではなくなる。『症状がないだけの病人』になる。」(216ページ)少なくとも、これはカルトの世界に似ている。アルツハイマー治療薬は、「疾患修飾薬」と呼ばれつつあるが、ドグマを成り立たせるための修辞法であることがわかる。そういえば少し前には「根本治療薬」が流行ったこともあったな。ところで、本書は一貫して「プラーク」を用いているが、「老人斑」との語感の違いを意識しているのであれば、これもなかなか戦略的である。

ザ・レインコーツ──普通の女たちの静かなポスト・パンク革命 ジェン・ペリー著 2021/11/26 Pヴァイン

ジェン・ペリー(著)坂本麻里子(訳)『ザ・レインコーツ──普通の女たちの静かなポスト・パンク革命』 – P-VINE OFFICIAL SHOP

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プリーズ・キル・ミー Garageland Jam Books レッグス・マクニール著 メディア総合研究所 2007.9 - いもづる読書日記

花の命はノー・フューチャー ─DELUXE EDITION ブレイディ みかこ 著 ちくま文庫 2017/06/06 - いもづる読書日記

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女パンクの逆襲──フェミニスト音楽史 | ele-king

レインコーツは聞いたことがなかった。スリッツと同系統のバンドと思っていた。意識し出したのはリーダーのアナ・ダ・シルバがPhewとシンセの作品を作っていたことを知ってからだ。あらためて作品を聞くと最もポストパンク的なバンドであることがよくわかる。まるで人類が音楽を発見した瞬間を幻視するようだ。本書を書いたジェン・ペリーにとっても欠くことのできないバンドだったのだろう。
で、本編では触れられていないことが重要と思われる。野田努氏による「補足」にある通り、アナとジーナはバンドを継続している。YouTubeでは”in Dan Graham’s Stage"という動画を見ることができる。おばさんになった彼女たちは驚くほど瑞々しい。活動を継続すること、ルーチンに堕さず実験精神を持ち続けること、DIY、シスター・フッドーー。ポスト・パンクの中心には女性がいて、時代の精神を体現している。これは一つの奇跡だと思う。

「ザ・レインコーツ」の初回プレスにはグリーン・ガートサイドによる言葉「神話とメロディの構築と脱構築 (Construction and Deconstruction of Myth and Melodies) 」がフィーチャーされていたそうだ。

ぼくはあと何回、満月を見るだろう 坂本龍一 2023/06/21 新潮社

坂本龍一 『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』 | 新潮社

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村上龍と坂本龍一 : 21世紀のEV.Café 村上龍、坂本龍一 スペースシャワーブックス 2013年3月 - いもづる読書日記

音楽と生命 坂本龍一 福岡伸一 集英社 2023年3月24日 - いもづる読書日記

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坂本図書

坂本龍一のメディア・パフォーマンス | 動く出版社 フィルムアート社

高橋幸宏細野晴臣を天才、坂本龍一は秀才と位置付けていた。天才を狂気と読みかえると、晩年の坂本にもそうしたノイズが現れていたような気がする。本書の最もエモーショナルな部分は、小津安二郎の映画が直視できないと述べた部分で、それにつづき、「きっと、この光景はもうどこにも存在しないのだという『非在』の感覚が、どうしようもないほど郷愁を誘ってしまうからでしょう。ブルーズは19世紀後半に、奴隷としてアメリカに強制的に連れて来られた黒人たちが築き上げた音楽ジャンルですが、不思議なことに、彼らの出自であるアフリカの国々にはブルーズのような音楽はない。既に失われてしまった故郷へのノスタルジアが新たな文化を生んだのですね。」(154ページ)と語っている。極めて知的な処理だが、細野はブルーズの発見を自らの体内に取り込んで再生産してしまうような凄みがある。一人になった細野さんから目が離せない。

老化とは何か 今堀和友著 岩波新書新赤版297 1993/09/20 

老化とは何か - 岩波書店

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アルツハイマー征服 下山進 KADOKAWA 2021年01月08日 - いもづる読書日記

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アルツハイマー病研究、失敗の構造 | みすず書房

坂本龍一 『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』 | 新潮社

 糸井重里(74)と谷川俊太郎(92)の対談を読んでいて(第2回 「俺は若い」とは言いたくない。 | 詩人の気持ち。 | 谷川俊太郎さん | ほぼ日刊イトイ新聞)「老いてても元気、とか、老いるのはつらい、という本はいくつもあるんだけど、もっとふつうに、『だんだん衰えていく』というのを読みたいんだけどさ。」とあった。ではまず、私の現在地を書いてみようかと思った。最近、感じるところが多いので。
 今年は高橋幸宏坂本龍一が相次いで亡くなった。最近は長生きの人が多いので、比較的早いといえるだろうが、それでも自分よりひと世代うえの方が亡くなるようになったのは実感される。そう、ぼくは1961年生まれの今年62歳だ。まだ、老け込むような歳ではないが、老化は感じる。今日書きたいのは主にふたつだ。足のことと目のこと。いかにも老人だ。
 ここ5年くらいジョギングを楽しんでいた。と書いたところで、ん?と思って、エクセルを開いてみた。7年だ。初年は年間500kmだった。去年は初めて1000kmを超えた。でも、今年4月のマラソンは散々だった。これまで、フルマラソンに3回チャレンジして一度も完走できない。マラソンの後、しばらく走らなかった。そう3ヶ月くらい。何度か再スタートしようとしたが、10km走るのも苦労するようになった。特に走った翌日はほぼダメだ。疲れが抜けないのだ。9月になったので、暑さは和らいでいくことだろう。涼しくなることを楽しみに、無理なく、粘り強く走り始めよう。でも、フル完走はもう無理じゃないかと思っている。
 お盆にコロナにかかった。解熱剤のおかげもあって、2日間で熱も下がり、本が読めるようになった。私は近眼なので、度の弱い遠近両用メガネを老眼鏡と称しているが、この老眼鏡ばかりかけていると、そちらの方が楽になった。世間と隔絶し、視界のボヤけた生活をしていたら、「それでいいや」という気分になっている。多分、5年後にこの文章を読んだら、何にもわかっていなかったと思うに違いない。
 「老化とは何か」を再読して、よくまとまった好著だと再認識したが、初回(2000年前後だったと思う)のような感銘は受けなかった。1993年に老化はフロンティアだったのだが、この30年間行政は何をしていたのかと思う。ひとつは1997年の介護保険の導入、もうひとつのメルクマールは本年のアルツハイマー病治療薬の認可であろう。いずれも大きな一歩には違いない。でも、これらで高齢化社会のイメージが明るくなった感じはしない。本書は老化という生物現象をいくつかの切断面で明らかにしていて、論点はシャープに整理されている。にもかかわらず、対策といえば「自分のことは何としてでも自分でやろう」(196ページ)といったわかりやすいところに落ち着いてしまうのが残念だ。本書は品切れということだが、古くなった用語法をあらためて、改定新版が出ることを希望します。